an injunction






動く度に
サラサラ流れる
艶やかな髪…


漆黒の中に
美しくうつる艶が
目を奪う…











an injunction
―禁止令―












朝食を終えた悟空は、チチのいつもと違う姿に視線をおくる



それは髪型



いつもなら、悟空が起きてリビングに入ると、チチはすでに髪を束ねた姿で家事をしているはず…



しかし、今日のチチは、食事が終わっても、髪を束ねる様子はない





『チチー』


『ん?どしただ?』


『今日おめぇ髪結ばねぇのか?』


『え?あ〜、邪魔だから結びてぇけど』





チチの話によると、いつも使っている髪止めが見当たらないのだという





『昨日、お風呂場で外したのは覚えてるんだけどー…』





そう言いながら、せっせと大量の食器を洗っていく





悟空は、そんなチチの言葉を、ふ〜ん、と返事しながら聞いていた





『さて!終わっただ』





洗い物を終え、エプロンで手を拭きながら振り向くと、テーブルに頬杖をつきながら、じっと自分を見つめている悟空に気づいた





『悟空さ?』





声をかけても、悟空は黙ったまま動かない





『悟空さっ!!!』


『へ!?あぁ…なんだ??』





そんな悟空に痺れを切らしたチチが、先程よりも大きな声で呼びかけると、悟空は、我にかえったように返事をした





『それはこっちの台詞だ!なんだべさっきから!人のことジロジロ見て』


『え?あ〜、わりぃ、わりぃ…』





アハハ、と笑う悟空にチチは、一体なんだべ…、と呟き、小さくため息をつくと、ふっと時計に目を向けた




『あんれ!もうこんな時間だ』





ハッとしたように、そう言うと、慌ててエプロンを外し始めた





そんなチチを見た悟空は、椅子から立ち上がりチチに声をかけた





『そんな慌ててどうしたんだ?』


『だって、早く買い物いかねぇと』


『え!?出掛けんのか!?』





いきなり大声で当たり前のことを聞いてきた悟空に、チチは一瞬ビックリしつつ目を向けるも、んだ!、と答えると、またせわしなく動き出した





『買い物って…何買いにいくんだ?』


『色々だぁ。』


『色々って?』


『食料品とかだべ。あっ!あと髪止めも見にいかねぇと』





次々と質問を投げ掛けてくる悟空に淡々と答えながら、チチは買い物袋に財布を入れ、身支度をととのえていく





『それってよぉ、絶対いかねぇと駄目なんか?』


『え?当たり前だべ!何言ってるだよ』


『でもよぉ…』





そう言って黙ったまま自分を見つめる悟空に、チチは支度を終えると、腰に手をあて、悟空をキッと睨みつけた





『さっきからなんだべ』


『え?いや…その…』


『もう!買い物いかねぇと飯も作れねぇだぞ!?』


『それはそうだけどさ』





はっきりものを言わない悟空に、チチは呆れたようにため息をつくと、準備したものを手にもち





『ほれ!悟空さも出掛けるんなら早く行かねぇと』





そう言い扉の方へ足を向けた





『おら今日は出掛けねぇ』





悟空の意外な言葉に、チチは、えっ!?、と思い、足を止め悟空を見た





『修業いかねぇだか?』


『うん』





そんな悟空を不思議に思いながらも





『珍しいだな〜。いつも飯食ったらすぐ出掛けちまうくせに』





そう言ってクスクス笑うと、たまにはゆっくりするのもいいだよ、と言い、悟空に留守番を頼むと、また扉のほうへと歩いて行った





『じゃ、行ってくるだ』





チチはそう言うとドアノブに手をかけ扉を開いた



しかし



少し開けたところで、後ろから伸びてきた手がバタン、とその扉を閉めてしまった



閉まった扉に驚いたチチは後ろを振り向くと、そこには案の定、悟空が立っていた





『どうしただ?悟空さ』


『ん〜??』


『閉めたら出られないでねぇか…』


『だから閉めたんだよ』





そう言って悟空は、チチが逃げられないように、もう片方の手を扉に伸ばすと頬に軽く口づけた



身動きできないチチは、突然のことに顔を真っ赤にし、そのまま俯いてしまう



そんなチチを見た悟空は、ニッコリ微笑むと、優しく頭を撫でながら、そっとオデコにもキスをした



扉と悟空に挟まれたチチはどうすることも出来ず、チラっと上目使いで悟空を見ると、小さく口を開いた





『悟空さ…今日どうしただ?』


『ん?』


『なんか変だべ…』


『そぉか?』





チチがコクっと頷くと、悟空は、だってよぉ〜、と言いながらチチの髪にそっと自分の指を通した





『この髪型で外でるのは駄目だ』


『え?』


『おらだけが見てもいいもんだかんなぁー』





意味が分からず、思わず顔を上げたチチに、悟空は優しく微笑むと、チチの耳元に顔を近付け、ボソッと何かを耳打ちした



その言葉にチチは





『なっ!?!!!』





言葉を失い、ありえないくらいに顔を真っ赤にし動揺してしまう





『何言っ…』





チチの言葉を遮るように、耳元から顔を離した悟空はそのままチチの口元へと顔を移し、抗議できないよう、強引に唇を奪う



何度も角度を変えられ、徐々に体の力が抜けていくチチを確認すると、悟空はそっと唇を離した



離された後も、チチはすぐには頭が働かず、ボーっとしたまま、しばらく悟空を見つめ続けた





『チチ』





その声に我に返ったチチは、あまりの恥ずかしさに俯いてしまった





『ご、悟空さはいっつも…そうやって……』


『ん?』


『ずるいだよ…』





チチの言葉に、わりぃわりぃ、と言いながら笑顔を見せる悟空



悪びれる様子もなく笑う悟空に、チチは悔しくなり、鋭い瞳で悟空に視線を向ける





『だって本当のことだろ?』





悟空のその一言に、チチは先程言われた言葉を思い出し、そうだけど…、と言って目を逸らした





『でも…買い物はいかねぇと…飯作れねぇだよ…』


『おらが後でなんか捕ってくっから』


『う〜ん…でも髪止め買いにいかねぇと…その…ずっと出れねぇだよ』


『家ん中でなくしたんだろ?』


『……うん』


『じゃぁ、探せば見つかるはずだ。おらも一緒に探してやっから』





その一言に、やっと顔をあげたチチに、悟空は、な?、といいながら笑顔を見せた



そんな悟空の笑顔に、チチはドキドキしてしまい、一瞬俯いて、もう一度ゆっくり顔をあげた



だめ?、というように首を傾けながら微笑む悟空に、チチはもう駄目だと思い、





『でっけぇ魚捕ってきてくれねぇと許さねぇだぞ』





そう言いながら悟空の胸へと顔を埋め、ギュッと抱き着いた





『おう!任せとけ』





そう言い切ると、チチの腰にそっと手を回し、優しく髪を撫でた





『髪止めも…絶対に見つけてくんねぇと困るだよ』


『あぁ、分かってる』





悟空の優しい声と、髪を撫でるその手が心地よくて、チチは小さく微笑むと、そっと静かに目を閉じた



するとフワッと体が浮き、ビックリして目を開けると、自分がお姫様抱っこされていることに気づいた





『ちょっ、悟空さ!なにするだよ!』


『まぁ〜まぁ〜』


『こら!おろしてけろ!』


『いいじゃねぇか〜』





そう言って笑うと、悟空は暴れるチチを抱えたまま、寝室へと入っていった











彼女を自分の瞳の中だけに留めておきたい

誰の目にも映したくない



だけど
そんなことは不可能で

そんな願いは許されない



それならば…

自分だけが知ってる彼女…


そんな姿が

一つだけでいいから欲しかったんだ








闇が全てを覆う夜

窓から射す月の明かりと

白く広がるシーツだけが

暗闇の中に浮かぶ時…

滑らかに波打つ漆黒の絹

キラキラ輝き、乱れる様似は

妖艶と呼ぶに相応しい





髪をほどき

甘い匂いを放つその姿は

その特別な時間を思わせる









(その髪型は夜の、あんときだけだろ?)










他人の瞳に映すことは許さない

なにがなんでも断固阻止








END













あきゅろす。
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