ture love




抑えがきかないこの想い



離れていくその瞳が

どうしようもなく
怖かった…











true Love
―真実の愛―













『いてっ…』





ボーっと、考え事をしながら、野菜を切っていたチチは過って指を切ってしまった



指に滲む血を、小さくため息をつきながら見る



水で濡らそうと蛇口に手をかけると、背後からいきなり腕をもたれた



驚いて顔をあげると、チチの怪我した指を見つめる悟空が立っていた





『切ったんか?』


『ご、悟空さ…んだ…ちょっと油断してただよ』





突然のことにチチは一瞬ビックリしたが、すぐに冷静さを取り戻し、悟空の問いに答える





『大丈夫か?』


『うん…ちょっと切っただけだ…水で流せば、』





チチの言葉を遮るように、悟空はその指を自分の口へ運んだ



悟空のその行動に、チチは顔が赤くなり、その場で固まってしまった





『ほら。舐めとけば大丈夫だぞ』





悟空はそう言うと、チチにいつもの笑顔を見せた





しかし、チチは、その笑顔からすぐに目を離し





『あ…んだな…ありがと、悟空さ』





礼を言って、その指を自分の胸元で握りしめると、悟空に背を向け、また野菜を切り始めた



そんなチチの姿を、悟空は何も言わずにしばらく見つめると、言葉を交わすことなくその場を離れた






ここ最近、チチは悟空を避けていた



避けるつもりはないのだが、心がついていかない



目を見るだけで…近くに悟空の姿があるだけで…、胸が苦しくなり、悟空の傍にいるのが、何故か辛かった


悟空も、そんなチチに気づいていた…



だけど、その理由が分かるからこそ、何も言えず、自分を避けるチチに気付きながらも、いつものように明るく振る舞い続けていた



そんな生活が最近ずっと続いていたある日の夜



食事をすませた後、チチは洗濯物を畳み始めた



悟空は、目の前のその様子を見ると、何か思い立ったように、チチに話しかけた




『なぁ、チチ』


『なんだぁ?』


『笑って?』


『なんで?』


『いいから』


『おかしくもねぇのに笑えねぇだよ』


『だよなぁー』





そりゃそうだ、と言うように悟空はいつものように明るく笑った



しかしチチは、そんな悟空を見ることなく、せっせと洗濯物を畳み続ける



そんなチチをしばらく見つめ、悟空はチチの後ろに座ると、腰に腕を回し抱き着いた





『悟空さ』


『ん?』


『邪魔だべ』


『いいじゃねぇか』





そう言って悟空は笑うと、チチは呆れたようにため息をつくと、好きにすればいいだよ、と言い、また手を動かし始めた





『おらのこと、嫌いか?』


『ん〜…うん。嫌いだ』


『あら〜…そっかぁ』





チチの答えに、悟空は、まいったなぁ、と言うように、ハハッ…と笑った



そんな悟空を気にすることなく、チチは淡々と話を続ける





『んだ。そんな不良みてぇな悟空さ嫌いだべ』


『だよなぁ』





自分を否定する言葉にも、悟空は優しく微笑みながら、耳を傾け、静かに答えていく





『でも好きだべ』





チチの矛盾した言葉に、なんだよそれっ、と小さく笑うと、悟空は、ギュッとチチを強く抱きしめ、その首筋に顔を埋めていく





『嫌いになりてぇだよ…なれるもんなら…』


『……………うん』


『悟空さなんか大嫌いになって…もっといい旦那さん見つけてぇだ…』


『……………あぁ…』


『そしたら…こんな辛い想い…しなくてすんだのに…』





どんどん小さくなっていく声をききながら、悟空は否定することなく相槌をうち、答えていく





『……嫌いになれたら、楽なのに…』





その言葉を最後にチチは黙り込んでしまった





それに気付き、悟空はそっと顔をあげた





『…………チチ?』





いつの間にか、洗濯物を畳む手は止まり、畳むために膝に乗せた洗濯物をギュッと握りしめている拳が目に入る



俯いた顔は、悟空から逃げるように、逆の方向に向けられている





『チチ…』





その顔を、自分の方へ向かせようと手を伸ばした瞬間、悟空の手が頬に触れるより先に、再びチチが口を開いた





『…なれねぇだよ…』


『………ん?…』


『どうしても……嫌いになんてなれねぇだよ……』


『チチ…』


『悟空さのことが、好きで好きで…どうしようもねぇだよ』





その言葉を聞き終わると同時に、悟空はチチの体を持ち上げた



チチを抱えたまま、悟空はソファーに座ると向かい合わせるようにして、自分の膝の上にチチをおろした





『馬鹿…』


『目、見て話したかったんだ』





そう言って、悟空はチチを見つめる



そんな悟空の言葉を聞き、チチもずっと逸らし続けてきたその瞳から逃げることなく、見つめ返す



チチのその瞳は、涙で潤んでいた





『チチ…』


『………ん?』


『大丈夫だからさ』


『……うん…っ』


『心配すんな』


『………分かってるだよ』





そう言ってチチは、涙を堪えながら、悟空の顔をそっと両手で包みこんだ





『チチ…』


『……ん?』


『笑ってくれよ』


『…え?…………』


『チチの笑った顔が見てぇんだ』





そう言って、悟空はチチに優しく微笑みかけた



そんな悟空の瞳を真っ直ぐに見つめ、涙ぐみながらも、懸命にチチは笑顔を見せる



しかし、その黒く大きな瞳は潤み続ける



限界までチチの視界を歪ませた雫は
そこに留めておくことが出来なくなり



瞬きをするたびに頬を伝う



それでもチチは笑顔で悟空を見つめ続けた



そんなチチの健気な優しさが悟空の心をうつ



悟空は流れるチチの涙を手ですくい





『やっぱチチは笑った顔が一番だな』





そう呟き、チチの頬を優しく撫でた





『大好きだ…悟空さ』


『…チチ………』





チチはクスッと悟空に優しく微笑むと





『世界で一番、悟空さのことが大好きだっ!!』





そう言って、とびきりの満面の笑顔で悟空を見つめた



チチのその笑顔と言葉に、悟空は、我を忘れたように、無我夢中で唇を奪い、そのままその場にチチを押し倒していた










何があっても受け入れる


そんな覚悟をしている自分に気づいてしまった


だから私は彼から逃げた…


見つめられると揺らぎそうで


傍に彼を感じると


体温を失うのが怖くなる


目を逸らし、避け続けることで


彼の全てを忘れてしまえる気がした


そうすれば
何があっても平気だと思える気がしてた……


だけど違った


日が経つにつれ、
どうしようもない愛しさが増していくだけだった


どれだけ彼を愛し、惹かれてしまっているのかを
思い知らされるだけだった


私は彼から離れられない


だからお願い


必ず帰ってきて


そして私を抱きしめて










『……泣くなよ…』


『…分かってる…けど』


『……チチ…』


『…っ……ん…?』


『愛してる…』










愛しすぎて


自分自身が壊れてく…


どんなに深く刻みつけても


物足りなくてもどかしい


(誰にも渡さない)


そんな強い独占欲で縛り付けて


自分だけのものにしてしまえたら、なんて…


そんなことを考えてしまう自分自身が
怖くなる


避けられてる確信と
逃げる瞳に気づいても


傍にいてやる、と
言えない自分がもどかしくて…


名前を呼ぶ度に涙を流すお前が


後悔の闇へと俺を引きずり込む


だけど、どうしようもない


お前の笑顔を
この瞳に焼き付けておきたかったんだ












『…絶対、帰ってきて…悟空さ………』


『………………あぁ…』










二人が望むその先に

『必ず』なんてないことを



知りながら
気付かないふりをした



二人が描くその先に

『絶対』なんてないことを



覚悟しながらも
嘘でも言葉が欲しかった







確かなことは

永遠に離すことができない




二人の愛だけだった










END








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