sign





あなたの前では
ため息ばかり

だけど、いつも
逆らえないの


それは、やっぱり
あなたのことが大好きだから








sigh
―ため息―











昼食の後片付けを終えたチチ



リビングを見ると、珍しく悟空が修行に行かずにソファーでくつろいでいる



悟飯は学校

悟天はトランクスと遊びに出かけている



久しぶりの二人きりの午後である



『悟空さ』


『ん?』


『お茶、飲むだか?』


『あぁ』



悟空の返事を聞いたチチは、早速二人分の湯呑みを用意し、お茶の準備を始めた



その時、部屋中に、電話の音が鳴り響く



チチは慌ててコンロのスイッチを切り、電話の方へと向かった



『はい、もしもし………、うわぁー!!久しぶりだべ!!』



電話の相手に、チチは歓喜の声をあげる



そんなチチの声に、悟空はソファーに座ったまま、後ろを振り返る



受話器を持ちながら、ニコニコ笑顔で話すチチ



『何年ぶりだー!?元気だっただか!?』



その様子は、とても楽しそう



悟空は、そんなチチの姿を、黙って見つめる



しばらくすると、悟空はソファーから立ち上がり、チチのもとへと歩み寄る



チチの背後に立った悟空



『チチ』



ツンツンと肩を突き、小声で呼びかける



それに気付いたチチは、電話の相手に、ちょっと待って、と言い、受話器を押さえながら振り向いた



『どうしただ?悟空さ』


『誰と話してんだ?』


『友達だべ、おらの親友だ』



その友達からの電話は、かれこれ二年振りだと、チチは説明する



すると、悟空は、ふぅーん、と頷く



と…、直ぐさまムスッと膨れっ面



『男じゃねーだろうなー?』



拗ねた子供のような口調で問いかけてくる悟空に、チチは小さくため息



『そんんなわけねーだよ、女の子だべ』



それを聞いた悟空は、



『そっか!ならいいけど』



と、いつもの笑顔を見せ、再びソファーへと戻って行った



そんな悟空の笑顔に、チチは、まったくもう、と呆れながらも小さく笑う






――――――……





あれから、30分



女の会話は、いつまで経っても尽きないもの



チチは近くにある椅子へと移動し、そこに腰かけ話し続ける



どうやら、まだまだ長電話になりそうだ



それに、じっと視線を送るのは悟空



テレビを見て、チチを眺めて…、そしてまたテレビを見てチチを振り向く



チチのことが気になって、気になって、落ち着いてテレビを見ていられない様子



それを何度か繰り返した悟空は、突然ソファーから腰をあげ、再びチチのもとへ



『それでな〜』



チチは話しに夢中で、近づいてくる悟空には全く気付かない



すると…



『え…!?』



チチの驚きの声がリビングに響き渡る



それもそのはず



悟空がチチを椅子から抱き上げたのだ



『ちょ、こ、こら!悟空さ!何す』


「チチ?どうしたの?」



いきなり慌て始めたチチに、電話相手の友達は、言葉を遮り問いかける



『ご、ごめん!ちょっと待ってくれるだか!?』


「え?うん、全然いいよ」



友達の了解を得たチチは、保留ボタンを押し、悟空に抗議



『悟空さ!いきなり何するだよ!』


『まぁーまぁー』



そんなに怒るなよ、と、ヘラヘラ笑いながら、悟空はチチを抱き上げたままソファーへ向かう



そして、チチをそこに座らせ、後ろから抱き着くカタチで、悟空も腰を下ろす



『こ、こんなんじゃ落ち着いて話せねぇだよ!』



後ろからギュッと抱き着いてくる悟空に、チチは頬を染めながら抵抗する



しかし、もちろん悟空はチチを離そうとはしない



『いいじゃねーかー、一人でテレビ見ててもつまんねーんだよ』



だからこうしてたい、と、甘えながら縋り付く悟空



『邪魔しねーから、な?』



と、無邪気な笑顔を見せる悟空に、チチは、深いため息をつく



『もう…、好きにすればいいだよ』


『サンキュー』



ニコニコ嬉しそうに返事をし、そのままチチを抱きしめながらテレビを見始める悟空



それは、それは、幸せそうな表情である



(本当、しょうがねーだなー、悟空さは)



やれやれ、と、言ったように笑い、チチは再び電話を始めた



『もしもし、待たせちまって、すまねぇだ』


「ううん、気にしないで、何かあったの?」


『別に何もねーだよ、ただ…』



チチは、それだけ言うと、ちらっと悟空に目を向け、



『大きい子供が、ただこねてただよ』



と、クスクス笑って、友達に話す



もちろん、友達はなんのことだか分かるはずもなく、どういうこと?、と聞き返す



『うちの旦那様は、いつまでたっても子供で困るってことだべ』



チチは、後ろの悟空をからかうように見つめながら説明する



そんなチチに、悟空は、へ?、と言ってポカーンとした表情



その説明を聞いた友達は、そうなの?、と言って笑い声をあげる



『んだ〜、まだまだお子様だ』


「いいじゃない、可愛くて」



二人は、そんなことを話して大盛り上がり



さてさて



話の話題にされている、旦那様はというと



(おら、子供じゃねーぞ)



そんなことを思いながら膨れっ面



いつまでも子供扱いされるのが堪らなく嫌な悟空



そう思われても仕方ないことをしている…、とは、悟空は気付いていないでしょう



邪魔しない、と約束したものの、悔しいので、旦那様は奥様に悪戯することに決めました



とりあえず、服に手を滑りこませようと試みます



しかし



『いてっ!』



その手を、チチに思い切りつねられてしまいました



それでも、悟空は諦めません



ギュッーっとさらに強く抱き着いて、チチの頬に口づけます



『!?』



照れ屋な奥様は、顔を真っ赤にして、邪魔してくる旦那様を睨みつけました



そんなチチの様子に、してやったりと言った表情を浮かべる悟空



怒ったチチは、友達と電話を続けながら、必死に悟空の腕から脱出しようとする



と、そんなチチを、ぐっと引き戻し、ニヤッと悪巧み


チチの白い肌に顔を埋め、首筋をなぞり、悪戯する



『……っ…、ん』



チチは思わず出してしまった声に焦り、咄嗟に、



『ゴ、ゴホッ、ゴホッ!!!』



と、わざとらしい咳でごまかす



それを見て、悟空は後ろで、必死に声を堪えながらケタケタ笑う



「ちょと、どうしたの!?大丈夫!?」


『え!?あ、う、うん!!なんでもないだよ!!』


「もしかして、体調よくないんじゃない?」



なんか変だよ、と心配する友達



チチは、もう駄目だと思い、話を合わせることにした



『ん、んだ!実はちょと風邪気味で、咳が出ちまうだよ』



そう言って、再びゴホゴホと咳するチチ



「無理したら駄目だよ〜!今日はもう切るね」


『う、うん、…すまねぇだ』


「何言ってんのよ、気にしないで〜、またかけるね」


『うん、分かっただ』



そして、二人はバイバイと挨拶を交わし、電話を終えた



ピッとボタンを押し、テーブルに電話を置いたチチ



くるっと後ろを振り返り、悟空に注意する



『悟空さ!邪魔しねーって言ったべ!?』



キッと眉を吊り上げ、怒るチチに、悟空は悪びれる様子なく笑いながら謝る



『あぁ、…久しぶりにかけてきてくれたのに〜』



そう言って拗ねるチチ



そんなチチの言葉に、悟空はすかさず、



『久しぶりに二人になれたのに〜』



と、かぶせる



ムスッと膨れるチチと、満面の笑顔を浮かべる悟空



しばらく、そのまま無言で見つめ合う二人



『もう!悟空さの馬鹿!』



この勝負に負けたのは、やはりチチ



深い深いため息を漏らして、悟空から目を逸らした



『怒るなって〜』



悟空はそう言いながら、チチの瞳を追いかける



『フン、悟空さなんか知らねーだ』



チチは、そんな悟空からさらに逃げる



『なぁー、チチー』


『…………』



悟空の呼びかけを無視するチチだったが、結局は逃げられないのです



くるっ、と体を回され、向かい合うカタチで悟空の膝に乗せられるチチ



悟空は、チチを正面から、真っ直ぐ見つめながら、



『チチと一緒にいたかったんだ、……怒ってるか?』



と、尋ねる



『ゴメンな』



首を傾げ、困ったように微笑みながら謝る悟空に、チチは、ドキドキと胸が鳴る



チチは、またまた深いため息



今日、何度目のため息だろう



だけど、やっぱり、彼の笑顔には勝てません



『悟空さには、敵わねーだ』



ため息混じりに見せる笑顔



そのまま、チチは悟空の首に腕を回し、



『大好きだから、許してあげるだよ』



と言いながら、ギュッと抱き着いた



そんなチチを優しく包み込み、悟空は囁くように、



『おらも、チチのこと大好きだぞ』



なんて、愛の言葉



リビングのソファーで、抱き合う二人



体を離して、甘いキス



なんだか恥ずかしくて、お互い、ヘヘ、と照れ笑い



子供達が帰ってくるまでの僅かな時間



それまで、久しぶりに
甘い、甘い、新婚気分



誰も入り込めない、二人の世界












呆れた素振りは
照れた自分を、隠す手段



すぐに降参なんて…

そんなの、なんだか
悔しいじゃない?



好きの数だけ
漏れる、ため息



なんだかんだ言ってても

子供みたいに縋る貴方が
堪らなく、愛しくて



仕方ないから
負けてあげる、…なんて

結局それも、単なる強がり





やっぱり貴方には
勝てないみたい










END













あきゅろす。
無料HPエムペ!