FLOWER
君、以上に
美しいものは、何もない
本気でそう思う、俺を
お前は笑い飛ばすかな…？
FLOWER
―花―
桜の花びらが、春風に吹かれて舞い踊る
桜並木を、二人仲良く散歩する夫婦
悟空と、チチだ
『綺麗だなぁ〜、悟空さ』
『あぁ、そうだな』
満開に咲き誇った桜を見上げ、二人はゆっくりとした時間を過ごす
そんな中、悟空は、桜からチチへと視線を移した
桜を見上げるチチの横顔
いつまで立っても、変わることのない、凛とした表情
温かい風が吹くたび、気持ちよさそうに、大きな瞳を、そっと閉じる
どれだけ一緒にいても、その愛しい姿に、いつも心奪われる
『なぁ、チチ』
『なんだべ』
『手、繋ごうぜ？』
『え？』
ほら、と言って、手を差し延べる悟空
チチは
『なんだべ、急に』
と、クスクス笑い出す
『いいから、ほら』
早く、と急かす悟空
そんな悟空の姿に、チチは、はいはい、と笑顔で相槌をうち、大きな手をとった
鼻を擦りながら、照れ笑いを浮かべる悟空に、チチはそっと寄り添う
『どうしただよ』
『何がだ？』
『今日の悟空さ、ちょっといつもと違うだ』
『そうか？』
『んだ』
チチは頷き、悟空の顔を見上げ、それにしても、と口を開いた
『本当、悟空さは、いつまで経っても年とらねぇだな』
柔らかい笑顔で話すチチを見下ろし、
『そうか？』
と言って、首を傾げる悟空
『んだ、羨ましいだよ
なんか、おらだけ年喰っちまって…、なんか恥ずかしいだ』
少し寂しそうに呟き、俯くチチを、悟空は何も言わずに見つめる
『この桜の木も、毎年、変わらず綺麗に花を咲かすだよ』
『…………』
『いつまで経っても、綺麗だべ』
すると、ひらひら、と、淡い桜の花びらが、チチのさらさらなびく髪に、ふわり、と落ちる
それと同時に、やけに静かな悟空を不思議に思ったチチが、顔をあげた
不意に瞳と瞳が合う
その綺麗な瞳に、思わず、ドキッとしてしまう悟空
相変わらず、何も言わない悟空を、チチは悪戯な瞳でからかい始める
『悟空さ〜、何も言わねぇとこ見ると、おらのこと、年とったって認めてるってことだべ〜〜？』
『ち、ちげーよ！そうじゃなくて！』
『そうじゃなくて？
なんだべ？』
『その逆だよ』
『え？』
『この桜の木と一緒で、いつまで経っても、綺麗だなって思ってさ
見惚れてたんだよ』
無邪気な笑顔で、そんなことを言う悟空に、チチは思い切り動揺してしまう
もちろん、顔を真っ赤に染めて、慌てふためき、言葉を探す
『ま、ま、またそんな冗談言ってー！気なんか遣わなくていいだよー、もう』
笑って悟空の言葉を否定するチチ
本当、何言ってるだよ、と笑い続けるチチの頬を、悟空は、そっと包み込んだ
『おら、冗談なんか言わねぇって』
いつになく、真剣な口調で話す悟空
チチは、そんな悟空を、照れた瞳で見上げ、見据える
『嘘じゃねぇよ』
吸い込まれてしまいそうな、優しい瞳が、チチの胸を熱くさせる
『……、悟空さ』
囁くように名前を呼ぶチチ
そんなチチの、長い髪についた花びらを、スーッと掬いとりながら、
『いくつになっても、お前は綺麗だよ』
そう言って、悟空は小さく微笑んだ
『チチが、世界一だぞ』
ドキドキ、ドキドキ、鳴り止まない鼓動
(この人の前だと、心臓がいくつあっても足りない)
そんなことを、本気で思うチチは、
『じゃぁ、悟空さは、おら以外の人は愛せないだな』
と、言いながら、照れた顔を隠すように、悟空の胸へと顔を埋め、抱き着いた
『他の奴なんて、目に入らねぇよ』
わざと、耳元で、甘く囁く悟空
さらに熱をあげるチチの体を、離さないように包み込んだ
『なら、いいだよ』
桜の木が、ざわざわ音を立て、二人のもとへ花びらを散らす
それを纏うように、二人の幸せそうな笑い声が、ピンクの花びらに乗って…
どこまでも、どこまでも
響き渡った
鼻先を霞める
髪の甘い香りも
壊れてしまいそうな
華奢な体も
ほんのり色っぽい
ピンクの花びらのような
甘い、甘い、唇も…
いつまで経っても
カタチを変えずに、彼女を彩る
どんなに年老いても
君は、枯れることを知らない
永遠の花
お前への愛情も
いつまでも、ずっと
枯れることなく
俺の中で、咲き続ける
END
