heart beat





冷たいシーツは
もう、嫌なの


私を満たすには

あなたの温もりと

確かに響く
鼓動が必要








heart beat
―鼓動―









夢の中では傍にいるのに

夢の中では、確かに温もりを感じるのに…



目を醒まし、手を伸ばした隣は

温もりを感じない冷たいシーツ



広いベッドに、私一人…



起きて最初にすることは

涙を流すことになっていた



二度と戻りたくない



7年前の、あの悪夢



あの頃の夢なんて…見たくないのに…



あなたの笑顔が
靄の中へ消えていく



(お願い…遠くへ行かないで…)



また私を置いていくの…?




――――――……





真夜中、目を覚まし、ガバッと起き上がるチチ



(………夢……良かった…)



そう思い、胸を撫で下ろし、安心したのもつかの間



隣に目を向けたチチの心臓が、ドクッ、と大きく波打った



『悟空さ…!』



暗闇に包まれた室内を見渡すチチ



どこにも見当たらない、悟空の姿



夢と同じ現実に、不安な思いが先走る



慌ててベッドから跳び起きた



そんな中、カチャっと静かに扉が開く



『あれ?チチ、起きてたんか?』



ベッドの側で立ち尽くしているチチに、悟空は声をかけた



眠っていると思っていただけに、そんなチチの姿に、悟空は驚いてキョトンとしてしまう



『そんなとこで、何してんだ?』



いくら話かけても、チチは黙ったまま動かない



まばたきもせずに、じっと悟空を見つめる



『おい、チチ?』



様子がおかしいチチに、悟空は歩み寄る



『……悟空さ…』



不意に口を開いたチチの声は、微かに震えていた



その声に、悟空は思わず足を止めてしまう



すると、チチは目に涙を浮かべながら、悟空のもとへと駆け寄って行った



『馬鹿!!!!』



そう言いながら、チチは悟空の体をバシバシ叩く



『お、おい!どどどうしたんだよ!』


『悟空さの馬鹿!』


『ちょ、ちょっと落ち着けって!なっ!?』



悟空はそう言って、チチの手を掴み、顔を覗き込んだ



『いぃっ!!??なんで泣いてんだよ???』



ボロボロ涙を流すチチに、悟空は一気にパニック状態



わけが分からず、あたふたしてしまう



『お、おら、なんかしたか?』



そんな悟空をチチは涙目で睨みつけると、勢いよく、広い胸へと飛び込んだ



背中に手を回し、力いっぱい悟空に抱き着くチチ



『どこ行ってただよ…』


『え?』


『…どこに行ってたんだって聞いてるだよ』


『…どこって…悟天を寝かしつけてたんだ』


『え?…悟天ちゃんを?』


チチはそう言いながら、顔を上げ、悟空を見つめた



まだ少し目に涙をためて、自分を見上げてくるチチに、悟空は優しく微笑む



『あぁ』



少し前、誰かが部屋へ入ってくる気配を感じ、目を覚ました悟空



そこには悟天の姿があった



眠れないと話す息子を抱き上げ、子供部屋へと一緒に向かった悟空は、悟天が眠るまで、その場にいたことをチチに話した



『おめぇ、気持ちよさそうに寝てたからさ、起こさねぇように出たんだ』


『……そうだったのけ』



全然、気づかなかった、と申し訳なさそうに目を伏せたチチ



悟空は、そんなチチの頭を優しく撫で、小さく笑うと



『なんで泣いてたんだ?
寂しかったんか?』



そう言って、ギュッとチチを抱きしめた



するとチチは、静かに呟いく



『夢…見ただよ』


『夢?』



チチは小さく頷き、



『…悟空さが…また遠くに…行っちまう夢だべ』



と言って、さらに強くしがみいた



夢の内容を聞いた悟空は、一瞬、言葉を失ってしまう



必死で抱き着くチチを、しばらく見つめた後、そっか…、と言って少し寂しそうに悟空は笑った



『…ごめんな……』



チチは悟空の体に顔を埋めたまま、ううん、と首をふる



『夢でよかっただ…』


『当たり前だろ、もう何処にも行かねぇよ』


『……本当に…?』


『あぁ、だから心配すんな』



悟空はそう言って、自分を見上げてくるチチの涙を掬い、いつもの明るい笑顔を見せた



その笑顔につられて、チチの表情もみるみるうちに晴れていく



そんな妻の頭にポンと片手を置いた悟空は、さてと、と言って体を離す



『次はチチの番だな』


『?』



首を傾げるチチを、悟空は抱き上げ、ベッドの上へと、そっと下ろした



その隣に滑り込むと、冷え切ってしまった華奢な体を、温めるように優しく包みこんだ悟空



『チチが寝るまで、こうしててやるよ』



滑らかなチチの髪に、指を通しながら囁くように話かける



『……うん』










こうやって
あなたに包まれて
体温に満ちたシーツの上

ゆっくり瞳を閉じる
この、瞬間が幸せなの


胸に顔を埋めて
耳を澄ませば、

生きてる証

波打つ鼓動の音に
不安は嘘のように消え去って



愛しい想いが
体中を駆け抜けるの









『あのな、悟空さ』


『ん?』


『おらは、悟空さがいないとダメだ…
生きてけねぇだ』


『なんだよ、いきなり』



突然そんなことを口にするチチに、悟空は小さく笑った



『もう…二度と離さないでほしいだよ』



言った後で、照れ臭くなってしまったチチは、ほんのり頬を染め、ギュッと悟空の服を握りしめる



悟空は、胸が締め付けられて、どうしようもない感情に襲われる



そんな悟空の気持ちを知ってか知らずか、チチはさらに強く抱き着いて、



『愛してるだよ、…悟空さ』



そう囁いて、目を閉じた



甘えるチチを、悟天と同じように寝かしつけるつもりだった悟空だが…



『なぁ、チチ』


『なに?』



チチはそっと瞳を開け、悟空を見つめる



そのおでこに一つ、甘い口づけを落とした悟空は、チチの黒い大きな瞳に、色気漂う笑みを写した



『抱いてもいい?』










断る理由なんて
何一つないから



私はあなたに全てを委ねる


体は更に体温をあげて
触れる温もりは
弱い心を焦げ付かす



汗を滲ませた白いシーツは

快楽の渦にのまれていく二人を
柔らかく包むの



あなたなしじゃ
私の全ては満たされない

あなたじゃなければ
私を満たせない



一人の夜はもう嫌だよ?


ずっと、ずっと…
こうやって



…壊すように抱いてもいいから



私の瞳から
二度と消えないで





約束だよ



この鼓動
響かせ続けて








END












あきゅろす。
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