hypnosis





流れる歌声

吹き抜ける風とともに

部屋中を駆け巡る



心地いい空間へと
優しく導いていく…








hypnosis
―催眠―










悟飯が誕生して、
一ヶ月程が過ぎた



朝から晩まで、チチは悟飯に付きっきりの生活



しかし、チチにとってそれは苦痛でもなんでもない



可愛い息子の笑顔を見れば、疲れなんて吹き飛び、初めての子育てを楽しんでいる



この日も、悟飯がご機嫌の間に、悟空とチチは昼食を食べ終えていた



『はい、悟空さ』


『サンキュー』



チチが煎れたお茶をすすりながら、悟空は布団の上で手足をバタバタさせる悟飯に目を向ける



何を言ってるのかは分からないが、とにかく楽しそうな悟飯



『よく分かんねぇけど、なんか楽しそうだな、悟飯のやつ』


『んだ、ご機嫌だべ』



悟空は、お茶を飲み干し、湯呑みをテーブルに置くと、椅子から立ち上がり、悟飯のもとへと歩き出した



『何が楽しいんだ〜?』



そう言いながら、悟空は悟飯の布団のすぐ傍にしゃがみ込む



ツンツンと頬を突くと、悟飯はキャッキャと笑顔を浮かべて、父の方へと手を伸ばした



小さな手が、悟空の指をギュッと握る



悟空も、そんな息子が可愛くて仕方がない



自然と、優しい笑みがこぼれる



『さて、悟飯ちゃん、お昼寝するだよ』



洗い物を終えたチチも、悟空と同じように、悟飯の傍で腰を下ろした



『寝かせちまうのか?』


『んだ、お昼寝は大事だべ』


『ふーん、…そっか』



少し残念そうに呟く悟空



チチは、そっと悟飯を抱き抱えると、腕の中であやし始める



体を揺らしながら、悟飯に微笑みかけるチチ



時折、声をあげる悟飯に相槌をうちながら、優しく答えていく



そんなチチの姿を、悟空はじっと見つめる



『なぁ、チチ』


『ん〜?』



悟空の呼び掛けに、チチは、そっと顔を上げた



あまりにも穏やかな表情で見つめられた悟空は、思わずドキッとしてしまう



『…あぁ、いや…なんでもねぇ』



ほんのり頬を染め、目を逸らしてしまった悟空を、チチは不思議に思い首を傾げた



『なんだべ、変な悟空さ』



チチはそう言ってクスクス笑うと、再び悟飯をあやしはじめる



そんな妻に、ちらっと目を向け、もう一度ゆっくりと顔をあげる悟空



今度は話し掛けることなく、ただただ、吸い込まれるようにチチを見据える







幼い頃から知る妻の姿

母となった彼女は

以前とはまた少し違う

新たな魅力に包まれて

なんだか不思議な気持ちにさせる



相変わらず美しい、と



今更ながら見とれてしまう



その柔らかな温もりが、恋しくて



なんだか無償に
甘えたくなる










『どうしただ〜、悟空さ?』



背中に感じた温もりに、チチは優しく問い掛けた



『ん〜?…なんとなく』



後ろからそっと手を回され、チチは悟空に、ぐっと包み込まれる



『悟空さも、甘えたくなっただか?』



幼い子供をあやすように話すチチに、悟空は少しうなだれながら、妻の白い首筋に顔を埋める



『こら、悟空さ〜、くすぐったいだよ』



そう言ってチチはキュッと首を縮ませる



渋々、首筋から顔を離し、細い肩に顎を乗せ、チチの背中越しに、悟飯の頭を撫でる悟空



すると、悟飯が大きなアクビを一つ



『眠くなってきただなぁ』



チチは小さくそう呟くと、静かに歌を口ずさみ始めた



『チチ、その歌なんだ?』


『これか?
これは、子守唄って言うだよ』


『子守唄?』


『んだ』



子供が気持ち良く眠れるように歌ってあげるものなのだ、と、チチは悟空に説明した



『ふーん…そうなんか』



チチは、うん、と小さく頷き、また静かに子守唄を柔らかく奏で始める



悟空はチチを抱きしめたまま、そよぐ歌声に耳を傾けた










それはまるで、
催眠術にかけられていくように



自然とまぶたが重くなる



ゆらゆら揺れる妻の体



首筋から漂う、甘い香りが



より一層、夢の世界へと誘い込む



柔らかくて、優しい…



この温もりを抱いて



このまま眠ってしまいそう…









しばらく歌い続けたチチは、腕の中の息子が気持ちよさそうに寝息をたてていることを確認し、ゆっくりと歌声を止めた



『おやすみ、悟飯ちゃん』



可愛い寝顔に微笑みかけて、チチは悟飯を起こさないように布団に寝かせ、そっとタオルケットを被せる



(今のうちに、やれることやっちまわねぇと)



そう心の中で呟き、



『さて、悟空さ、そろそろ、』



と囁きながら、肩に乗せられたままの悟空の顔に目を向ける



『離れ…て……、あれ…?』



そこには、息子と同じように、気持ちよさそうに寝息をたてる夫の寝顔



悟空も、悟飯と共に、チチの子守唄で眠ってしまっていたのだ



そんな旦那の姿に、チチは軽いため息



『まったくー、これじゃ動けねぇだよ』



しかし、あまりにも気持ちよさそうに眠る悟空が、チチは愛しくてたまらない



クスっと小さく微笑むと、眠り続ける悟空の頬を、チチは優しく包み込んだ



『大好きだ…悟空さ』














降り注ぐ太陽の光が
室内を暖かく包み込んで



規則正しく刻む鼓動と

同じテンポで響く

静かな二つの寝息






今日はこのまま仲良く
ポカポカ陽気に誘われて



穏やかに流れる時の中



スヤスヤ、スヤスヤ



ゆっくり、お昼寝











END











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