crazy





いくら世界を救える強さがあっても

たった一人の
女の前では


こんなにも脆くて弱い










crazy
―狂気―











寝室の中



悟空はチチにある質問を投げ掛けていた



『昼間の男、誰だ?』


『昼間の男?』


『道で話してたじゃねぇか』



修業を終え、悟天と家へ戻る途中、買い物帰りのチチを見かけた悟空



声をかけようとしたが、隣の男が目に入り、声をかけずに、その場に立たずんだ



チチも昼間のことを思い出し、あぁ、あの人だな、と言って話し出す



『ただ、道を聞かれたから教えてただけだべ』


『………ふぅーん』


『見てただか?』


『…あぁ…まぁな』


『じゃぁ、なんで声かけてくれなかっただよ』


『別に…なんとなく…』



悟空はベッドに腰かけながら、寝る準備をしているチチの背中を見つめていた



なんだか素っ気ない悟空の返事に、チチは



『悟空さ〜、もしかして〜、ヤキモチ妬いてるだか?』



と言って後ろを振り向いた



『そんなんじゃねぇよ』



少し膨れっ面で呟く悟空に、チチはクスクスと笑い出す



『本当、悟空さはすぐ嫉妬するから困るだよ』



そんなチチを、悟空は何も言わずに見つめ続ける



『でも、好きな人に、ヤキモチ妬かれると、嬉しいもんだべ』



そう言って小さく微笑むと、チチは寝る準備を終え、鏡台の椅子から立ち上がった



その瞬間、チチは悟空に抱き上げられた



『!?』



驚いたのも束間



次の瞬間には、すでにベッドの上だった



『悟空さ!?』



目が点になっているチチに、悟空は覆いかぶさり、身動きを奪う



両手を押さえて瞳を覗く



『いきなり何するだよ!』



突然そんなことをする悟空を、チチはキッと睨みつける



しかし、悟空は全く怯まない



『何するってー?』



チチの鋭い瞳に逆らって、悟空は怖いくらいに笑顔を浮かべる



『こうするんだよ』



そう言って、悟空は本能に任せて、チチの服を裂いた



ビリッ、と破れる音が響き、チチの顔は一気に赤く染まる



『ふ、ふざけるのもいい加減にするだよ!!』


『ふざけてねぇよ』


『……っ…!!』


『嫌がってるわりには、顔真っ赤じゃねぇか』


『こんなことされたら、当たり前でねぇか!』



そう叫んだ途端に、キスで口を塞がれてしまった



力が抜けた瞬間を見計らって、ゆっくり唇を離し、悟空は意地悪な笑顔をチチに見せる



『そんな大声だしたら、ヤバイんじゃねぇかぁ〜?』

『…………だって、』


『あいつらに聞こえちまってもいいのかー?』


『………馬鹿……っ…』



両手の自由を奪われてしまっているため、顔を隠すことができない



かといって、直視することもできず…



恥ずかしさのあまり、チチは、手で隠す変わりに顔を背ける



しかし



悟空は直ぐさま、片手でチチの顔を自分の方へ向かせ、優しく頬を撫でた



『気に入らねぇよなー』


『…何が…?』


『昼間の男』


『だから、道教えてただけだって言ったでねぇか…信じてない?』


『そういう問題じゃねぇよ』



そう言って、頬を包みながら、親指でチチの柔らかな唇をなぞる



『…じゃぁ、何…?』



『さぁ、なんだろうな』










考えても分からない



そんなもの…



理由なんて、
あってないようなもので


些細なことだよ






(ただ、道を聞かれたから教えてただけだべ)





ただそれだけのこと

ただそれだけのことが

どうして自分は
こんなに許せないのだろう…






(悟空さ〜、もしかして〜、ヤキモチ妬いてるだか?)





妬いてる…?



違う



そんな生温いものじゃない






(本当、悟空さはすぐ嫉妬するから困るだよ)





もっと深く…

嫉妬を超えた想い



狂ってるか?






『お前は誰にも渡さねぇよ』






独占欲が暴走する


それはもはや、狂気だ





荒い高波のように

退くことを知らない乱暴な衝動



身に纏うもの全てをひき裂いて



白い肌に証を刻み付ける



消えないように強く、強く











『悟空さ、…痛い…』


『こうでもしねぇと、気がすまねぇんだよ』











たかが通りすがりの一人の男


たかがそれだけのものに

自分はこんなにも壊される











『…悟空さ…どうしただよ…っ…』


『チチ、可愛いな』


『っ…もう、…それじゃ答えに…なってない』











脆いもんだよ

こいつの前では











『ちょっと待って…』


『ん?』


『…首には、つけたら駄目…』


『なんで?』


『…目立つし…人目についちまうだ』











嫉妬と衝動が入り混じって


どんどん、どんどん
崩れていく



欲望に勝てないなんて











『いいじゃねぇか、その方が』










弱いもんだよ




たった一人

どうしようもなく
惚れた女の前ではさ…














『も、…っ…や…』


『まだ終わるわけねーだろ』











どれだけ跡を残しても
きりがない



裂けた服の隙間から
そっと手を滑り込ませれば



お前は微かに身悶えて


声を抑える表情が


俺の理性を
ズタズタに切り刻む





月明かりが照らしだす

息を呑むほどに
透き通る美しい体を



お前のその
高ぶる表情と、甘い声が



傷つけたくなるほどに



正常でなんて、
いられなくさせる





こんな酷い俺を見ても



甘い吐息を混じらせて

好き、と囁く
お前の声


真っ直ぐ見つめる瞳に


感情は全て支配される








誰にも触れさせないように
誰にも見つからないように

どこかに閉じ込めてしまいたい










突き抜く、果てしなく奥まで





涙を流して悶え続ける
お前の中を



止まることなく駆け巡る










もう、本当
どうしようもねぇな







俺はきっと、狂ってる















次に生まれ変わるなら

手に入れたいものはただ一つ


無限の強さなんかよりも


誰にも邪魔されることのない



二人だけの
小さな、小さな一つの世界






俺とお前

それだけ存在していれば


他には何もいらないよ










END













あきゅろす。
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