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Raw deal
T
「だから、人としては好きだけど愛とかそんなんじゃねぇの、もう」

「…お前、マジで言ってんのかそれ…」

「…それが俺の本音だけど?」

 十四郎の綺麗な顔がみるみる歪んでいく。

 そう、こいつは綺麗だ。心も顔も、身体も。だから汚したくなった。
 でも、俺はもう疲れたし、こいつの愛情に応えるのもごめんだ。
 嫌い…じゃない、今もまだ。でもこいつの人生の責任を取る気はねぇ。
 
「…なんで…」

 黒い大きな瞳が涙で潤んでいく。でもそれを拭ってやる気にはなれない。俺はお前の愛情なんか、はなっから欲しくなかったんだよ、まだわかんねぇの?


   *****

 
 こいつとは高校の卒業以来だから17年ぶりか?まあともかく随分と久しぶりの同窓会で再会した。

 同じ剣道部に所属し、2年3年はクラスも同じだったから、仲は良かった。
 でも大学は違ったし、専攻も多分違ったから、卒業と共に疎遠になっていったと俺は思ってる。あの頃の事なんて、もう曖昧でぼんやりとした記憶しかねぇけど。

 俺は高校時代から遊び人と思われてたし、事実真剣に女と付き合わず、都合よく遊べる女だけ選んできた。
 それに対し、十四郎は一人の女としっかり付き合うタイプで、きっとその頃から誠実な男だったんだろう。高校時代から付き合っていたミツバと結婚していたのがその証拠だ。
 それも過去形だが。
 
 決して女々しいヤツじゃねぇし、男気もあるヤツだ。けれど人目を魅く容貌は昔と変わらず、男だけど『綺麗』と形容するのが一番相応しい。そう、こいつは昔から光を放っていた。眩しいくらいに。
 
 だからかもしれねぇ

『銀時か?久しぶりだな、元気そうで何よりだ』

 嬉しそうに声を掛けてきたこいつを、堕とそうと決めたのは。
 


 俺には何年もセックスレスで全く俺を信じてない(当然だが)妻と、まだ幼い二人の子供がいる。
 結婚は、特にしたかったわけじゃねぇが、当時の女が「堕ろしたくない」と頑張ったから渋々籍を入れた。
 二人目の子供は、周りが俺達夫婦を見るに見かねて、「もう一人作ってやり直せ」と煩く言うから、アイツ(一応俺の奥さん)の排卵日に一発決めただけだ。
 自分を興奮させ、必要最低限突っ込めば良いようにすんのに、えらい苦労した。あんな女にいつまでも突っ込んでられるか、馬鹿馬鹿しい。
 
 俺はとにかく、相手を恥辱に塗れさせ、支配するのが好きだ。
 今時、相手には事欠かねぇが、そろそろもうちょい遊びてぇと虫が疼いた時、たまたま十四郎と再会したわけだ。 
 昔は俺もこうだったわけじゃねぇと思うんだが、いつの間にか、俺は夫としては勿論、男としても人としても最低になっていて、今更それをどうにかしようとも思ってねぇ。
 
 綺麗なモンを汚した時だけが、嫌がりながら快感との狭間で相手の心が揺れる時だけが、生きてると感じられる。
 「人」の残骸が残っているかもしれねぇと、そう思える。

 だから、従順に、真っ直ぐに俺だけを見るようになり、淫乱に腰を振り、自ら求める今の十四郎はもう必要ねぇ。そう躾るまでが愛しいわけだからな。俺の愛しいって定義は、心もとねぇが。
 俺の口車に乗り、穏やかな生活をしていた奥さんとほんとに別れちまったこいつなんて、後は金づるくらいでしか使えねぇだろ?
 
 
   *****
 
 
「怖い?十四郎?」

 あくまで優しく俺は聞く。お堅いこいつをホテルに連れ込むまで、どれだけ砂を吐く思いをしたか。

 同窓会では、旧友ヅラしてにこやかな笑顔を絶やさなかった。

「また昔みてぇに会いてぇよ」

 そう囁けば、素直にメアドを寄越してきた。

 十四郎の自慢の一人息子の写メも、目尻を下げて可愛い、可愛いと連呼してやった。

 栗色の髪と瞳はミツバ譲りか?
 十四郎みてぇに今では珍しいほどの黒髪、黒い瞳なら、もう少し成長してから喰ってやってもいいけどな。
 総悟は可愛く成長するだろうが、十四郎みてぇな綺麗な男には程遠いだろうよ。ああいうのが好みの女は多いかもしれねぇけど。でも、俺は興味ねぇな。
 
 俺を疑いもしねぇ十四郎を何度も飲みに誘い、「お前、引くかな。俺昔、お前が好きだった」だの、「本当の愛が欲しい」だの「男は愛したヤツの全部を包んでやるべきだよな」だの、「許されなくても十四郎となら生涯過ごしていける気がする。これって愛かな」だの、とにかく口説きまくった。

 最初は戸惑いつつ、酔っ払いの戯言だと軽くいなしていた十四郎が、徐々に絆されて行く様は、俺の計算通りで、そのお人好しぶりを随分笑ったもんだ。

 どんなに愛情を捧げても頑なに冷たい奥さんと、それでも愛している子供達の間で、心が愛を求めてる。 そんな風に言えば、十四郎は俺の代わりに嘆き、「お前だって愛されるに値する男だろ?」と同情する。
 
 ああ、これが堪らない。
 
 真摯な顔を作り「十四郎…」と囁けば、いい歳して顔を赤らめる十四郎が、今まで遊ばれなかった事の方が驚きだ。

 何度もそれを繰り返し、「こうしてお前に再会出来た俺は幸せだ」そう言えば、お堅い十四郎が頬を染め上げ、「…俺もだ…」そう呟いた。
 
 そろそろ頃合いだと、何度目だかに飲んだ別れ際、男としては長く綺麗な指に俺の指を絡らめ、

「…お前を抱きてぇ。お前を愛してるみてぇだ。俺の唯一の光なんだ。もし、お前が、その心のほんの少しでもいい。俺にくれるなら、その代わり、俺が出来る全てをお前に捧げるよ」

 歯の浮くような台詞を耳元で言ってみた。

「…俺は…ミツバも総悟も大事だ。けど…お前みてェに俺を求めたヤツはいねェ」

 消え入りそうなその声に、俺は自分を褒め讃えた。 
「…銀時。俺は、その、知らねェし…今までこんな…男同士なんて、考えた事もなかったし…つぅか、お前だって家族は居るだろう?…俺が居る事で奥さんや子供達が悲しむなら俺は…」

 あくまで誠実な十四郎に俺は感動したフリをする。

「ああ…十四郎。俺、誰かにそんな大事に想われた事ねぇよ。罰は勿論甘んじて受けるさ。けど、俺…お前が欲しい…」

(ああ、お前は何て簡単なんだ)

 俺は滅多に見つからねぇ宝を見つけたみてぇな気持ちになって、

「…愛してる」

 そう囁き、その唇にそっと口付けた。

「…有休取れねぇ?休みの日はお前も色々あんだろ?お前の一日をくれって言ったらお前困る?どうしても抱きてぇ」

 甘く囁けば、十四郎は潤んだ瞳で頷いた。






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あきゅろす。
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