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月の残り香
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 俺はこうして書くのが仕事です。そりゃ時にはクサりもしますよ?やってらんなくなる時だってありますよ。けどね、これは俺の使命なんです。 
 別の世界では、作文並の報告書しか書けませんでしたけど…
 見て、記録するのは俺の天命なんです。俺にも翼がありますからね。書庫に籠もりきりになる時もありますけど、全部見てるんです。見たくないものまで……。 
 

   ***** 
 

『暁の輝ける子』
『神の御前の王子』
 
 それが二人(ルシフェルとミカエル)の通り名です。大袈裟だよ、って?
 馬鹿言っちゃいけません。二人が寄り添う姿を見た事がありますか? 
 神の恩寵を一身に受けた二人は、同じ天使でも見惚れる美しさなんですから。
 
 天使には『性』はありません。人間的に言えば、両性具有って言うんですかね。まあ、ぶっちゃけ、見た目男なんですが、人間でいう倫理とか道徳とか、そんなのはないんです。 
 交わりたいと思えば、誰とでも交わる。これが天使なんです。俺達にとってそれは歌を歌うのと、何ら変わりないんですよ。神への捧げもの とまでは言えないけれど、まあそんな感じですかね。
 
 だけど、俺もあの二人には近づけません。いや、話もしますし仲良くしてますよ?
 
 けれど………
 あの二人だけは特別なんです。
 
 俺だけじゃないですよ。あのガブリエルやラファエルすら、あの二人と交わった事はありません。神が絶対なこの世界で、唯一、あの二人は神と互いにしか愛を捧げていませんでした。




 暁の輝ける子ルシフェルは美しい銀髪と紅玉の瞳を持つ誰より美しい天使。
 その眼差が暖かく輝くと、この世界は更に輝きを増す。12枚の羽根は銀色の光彩を浴び、新雪に朝日が射すよう。
  
 一方、神の御前の王子ミカエルは、漆黒の髪を持ちその瞳はグレーにも濃紺にも変化する類い稀な南洋真珠。
 天使を束ね、動かすその姿は見るものの歓喜を呼び興す。
  
 俺ですか?俺は………多分人間からみたらイケてるんじゃないですかね? 
 美しい男ではあるはずですよ?だって天使ですから。人間と比べたらそりゃ、違うはずです。でもね、ここじゃ地味…かなぁ。
 ……ってかここでも、なんて事は聞きませんからね!!!
 ま、俺の事はいいとして、二人の話なんです。


 二人は双子として生まれました。他の天使達と同じように神の御心によって。
 けれどきっと神すらも彼等の愛があんなに深くなる事など予想出来なかったんじゃないでしょうか。  
 それとも、万能である神は全てをご存知だったのか……。

 奔放でともすれば傲慢とも見えるほどのルシフェルと、彼を崇め、彼を慕い、静かに真っ直ぐに見つめるミカエル。
 そのルシフェルがミカエルだけに注ぐ心からの優しい眼差し。

 二人の螺旋はこの天空をまばゆい光で被う。
 二人の世界。
 二人だけが紡げる世界。
  
 俺はいつもただ茫然と、えもいわれぬ歓びに身を震わせ、二人を見てました。 
 確かに俺も、二人を愛していました。というか、きっとこの天空の誰もが、愛していたんでしょうね。


 
 今も此処には雅やかな音楽や歌声が響き、芳しい香りが漂います。神へ愛を捧げ、神の御心のまま、俺達は過ごしていくんです。それが俺達、天使ですし、それに不満なんて全くありません。

 けれど………。

 俺は今も二人を見てるんです。二人の心の涙を痛切に感じています。そしてそれを書きけるんです。
 それは、確かに俺の仕事のうちだけど、やってられないというか。
 何かね、知らぬ間に何かが目尻から流れてきたりするんですよね。

 それでも俺は書き続けます。記し、伝える事が、俺が天界にいて、翼を持つ理由ですからね。



 ここで天使について少し説明しますね。

 天界ってのは一見複雑だけど、一度わかれば簡単なピラミッドで出来ている事がわかるんですよ。

 天使のピラミッドは、9階層あると言われ、上から数えて3番目までが上級天使。4〜6が中級天使。7〜9が下級天使と言われています。
 上級天使の一番高い位が『熾天使(してんし)=セラフィム』と呼ばれています。

 さて、まず絶対万能である神。万物の頂点です。俺達天使は皆、神の愛から生まれました。

 あの戦いがあるまでは(それは後々語ります)ルシフェル(後のルシファー)が神に一番近い存在でした。
 ミカエルの双子の兄にであり、天界においてミカエルより上位に位置し多くの天使達を率いる神に最も近い存在だったんです。
 そしてミカエル。神の摂理の代行者。右手に剣を、左手には公正を表す秤を持つ天使。
 わかりやすく言えば、今の警察や裁判所のシンボルですね。

 ルシフェルとミカエルがこの物語の主人公になります。『あの二人』、『彼等』など、二人はひと括りで呼ばれることも多いかもしれません。

 次にガブリエル。『神の英雄』と呼ばれ、預言と啓示の天使。慈愛の象徴なんて言われる事もありますね。マリアに受胎告知をした事で、ガブリエルも有名です。

 ラファエルは『若者の守護者、旅人の守護者』と言われ、陽気で快活、親切な気質の天使です。

 ルシフェルを除くこの3人は『熾天使』と呼ばれ天使の中で一番高位の階級になります。
 この3人にウリエルを加え、最も偉大な四大天使と呼びます。

 さて、俺ですが。俺はラジエル。この名は『神の秘密』を意味します。
 階級は『座天使(ざてんし)=スローンズ』で、その長をしています。座天使は熾天使から始まるピラミッドの上から3番目です。
 秘密の領域と至高の神秘の天使で、他の天使達が知り得ない天地の秘密の鍵を握る存在。なあんて言われてます。……恥ずかしいけど。
 ここの俺は所謂、「記録屋」だと思ってください。

 そしてもうひとつ。
 この天界では天使名の他に俺達は名前を持っています。

 ルシフェルは 銀時
 ミカエルは 十四郎
 ガブリエルは 小太郎
 ラファエルは 総悟

 で、俺は 退

 愛称みたいなもんだと思ってくださいね。親しい者だけで通じる遊びみたいなもんです。
 東方の呼び名はエキゾチックなんで。愛称の他、それぞれ呼びかける名もありますが、そのへんはご愛嬌って事でね。

 じゃ、物語本編を書いていきましょうか………。




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