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For real?
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「好きでもねェヤツに、しかも男に、好き勝手される事は勿論辛かった。けど、一番俺が怖かったのは、「殺意」が何かをわかっちまった事なんだ。本物の憎しみ、本気で消したいと願う相手。今だって戦争やってる国もあるよな?でもそいつらも誰か特定の相手を殺したいと思って戦ってるわけじゃねェだろ?そりゃ、遣り合ううちに、個人的に敵同士になる奴らもいるだろうけど、国や宗教って大義名分で戦ってんじゃねェのか?大義名分がありゃ、殺していいんかって言われたら、そりゃ違うと思うけど、俺が知ったのはそういうんじゃなくて、ニュースで出てくるような話の類なんだ…。俺はあの時、あのままもっと長くアレが続いていたら、ほんとに殺しちまったと思う。喧嘩して頭来て、とか、気に入らねェとかそんな感情じゃねェ。俺は本気で、じわじわと弄り殺してやりてェ。そういう感情を知っちまったんだよ。…だから、感情的になるのが怖くて堪らねェ。もし、うっかりスイッチが入っちまって、自分でも止められなくなっちまったらどうしようって考えると、強く何かを感じるのが怖ェし、それなら感情をコントロールしてた方がいいじゃねェかって…」

「…土方さん…」
「…土方くん…」

「だから、総悟。男に犯やれた事をお前に知られるのは勿論、そんな俺を知られるのが堪らなく嫌だった。どんなにソイツに侮辱されようが、周りの奴らに罵られようが、それは我慢出来たと思う。でも、お前に軽蔑されたら、俺はやってけなかった。お前に言えなかったんじゃなくて、お前にだから言えなかった。お前にだけは知られたくなかったんだ」

「…けど…けど、俺ァそんな事でアンタとの付き合いを止める気なんざ、アン時も、今も微塵もねェ。昔はいざ知らず、今はそれ、わかってくれやすよね?」

 二人の声音が胸に痛い。それまでの世界がひっくり返った土方が、沖田くんとの関係を拠り所にして必死に繋ぎ止めたかった事も、何も手を出せずに見守るしかなかった沖田くんも。



「…現実的な話をしていい?土方くん。ソイツ転校したのは良かった事だけど、つか、少なくともソイツのオヤジは常識的なヤツで良かったけどね、もし、だよ?ソイツが今現れても、土方くん大丈夫?」

「!!旦那っ!何を言って…」

「大丈夫だよ、沖田くん。でも大事な事でしょ?例えばソイツが学校に現れたとするよ?知らん顔して、久しぶりだなとか声掛けられたら、土方くんはやっぱりソイツ、殺す?つか、殺してぇ?」

「……………」

「…旦那、何を……」

「…なぁ、土方くん。俺を見て?で、良く聞いて?」

 困惑している土方の視線がゆっくり上がり、俺をみつめた。

「もし、土方くんが殺意を抑えられないなら、俺と、沖田くんも一緒に殺してあげる」

「…えっ……」

「わかってるよ?殺人は犯罪だよ?でもね、そーいう事じゃねぇんだよ。男に対して強姦罪が成立すんのか、よくわかんねぇけど、ソイツが土方くんにしたのは強姦罪じゃねぇの?他人を脅して言う事を聞かせて凌辱すんのは犯罪だろ?相手に対し殺意を覚えても、つか殺しちゃっても、その時なら正当防衛だろ?過剰防衛って言われるかもしれねぇけどさ」

「……………」

「そのくれぇすげぇ事されて、殺意を覚えんのは当然なんじゃね?土方くんだけじゃなくて、そういう経験したヤツは多かれ少なかれ、強い憎しみや殺意を覚えんじゃね?」

「…銀時……」

「でな、沖田くんと俺は、形も違うし、付き合いの長さも違うけどよ?ソイツをぶちのめしてぇって気持ちは多分同じよ?土方くんが大事だもん。だからさ、ソイツを殺してぇなら、俺ら一緒に殺してあげる。つかむしろウェルカム。…でもね、多分きっと、もう土方くんのそれは出て来ない気がするよ?こんなに長い間、それと戦ってたんでしょ、一人で。
でも、それをこうして話せたってのは本当に過去に出来る第一歩な気がするんだ。わかんねぇけどな?俺がそう思うってだけで、土方くんの気持ちと同じとは限らねぇしさ。……な、やっちゃうよな、俺ら」

 沖田くんにそう言えば、沖田くんは、ハッと俺を見た後、くすくす笑って話し出した。

「もちろんでさァ。いやァどうしやす、旦那。まず、爪を一枚づつ剥いで、それから、電ノコあたりで…」

「いやぁぁぁぁっっ!!やめてぇっ!おまっ、ケツから尻尾出てるよ?黒い尻尾ぉ!想像するだけで痛ぇから、やめてぇぇっっ!!…つか、真夏に裸にひん剥いてよ、日本酒かけて、沼の近くにでも吊るしておかねぇ?」

「ちょっ!旦那!!やめて下せェよっ!!ううっっ!身体が真っ黒になる程、蚊が寄って来まさァッッ!!想像するだけで痒いっ!!うわぁぁっっ!…旦那、性質悪ィや、アンタ。土方さん、こんなヤツでいいんですかィ、アンタ!!考え直すなら今ですゼ?!」

 土方はそんな沖田くんと俺の悶える姿をキョトンと見ていたが、やがて、プッと吹き出すし「…お前ら、どっちも最低だよ…」と言うと、ゲラゲラ笑い出した。

 そうだよ、笑い飛ばそう、出来る事なら。過去を消す事は出来ねぇけど、もう、一人で悩む事はねぇんだから。

 それを見た沖田くんは、目に見えてホッとした顔をして、おもむろに立ち上がった。

「アンタ、これからはそうやって笑って下せェよ?ったく世話のかかるヤローでィ」

「…総悟…」

「そんな、可愛い顔してみても、俺には通じやせんよ。今までの分、これからずっとアンタを弄り倒してやりやすんで、覚悟して下せェ。…さてと、そろそろ、俺ァ帰りやすけど…土方さんはどうしやす?」

「…えっ?」

 てっきり沖田くんと帰ってしまうんだろうと思っていたが、土方は俺をチラリと見ると、

「…銀時が構わねェなら、ちょっと頼みてェ事があるんだ…」

 と遠慮がちに言った。

「俺に?いいけど、何?」

 そう聞けば、少し困ったように黙り込む。

「…そしたら、旦那、土方さん頼みやすぜ?つか、早くタッパーごと渡しなせェ」

 空気を読んだのか沖田くんはそう言うと、本当にタッパーを抱え、

「明日、代返しときやすから、ごゆっくりィ〜」

 ニヤニヤ笑い、足取りも軽く帰って行った。

 あんな風に言ったのは、沖田くん流の「気にするな、俺は居る」そういうことなんだろう。ま、素直じゃないのも沖田くんらしいが。



 二人きりになった部屋で、気詰まりな空気が流れる。土方はまた机を凝視したまま、唇を噛み、顔を上げられないようだった。
 俺は俺で、大層な事を言っちまったかなと今更恥ずかしくなり、言葉を探していた。

「…土方くん」
「…銀時…」

 同時に呼び合い、互いに苦笑する。

「…俺…こういうの…上手くねェから…その…」

 顔を真っ赤にした土方が口を開いた。

「……………」

「…変な事言ったり、意味わかんなかったり…」

「…大丈夫だよ?ちゃんと聞くし、ひとつひとつ確かめて行けばいいだろ?思った通り言ってくれりゃ、それでいいから、そのまま言ってみ?」

 土方が上手く話せないなら、俺が拾い上げればいい。そういう気持ちを込めて言った。

「…あ、あのな?昨日、総悟に言われて…いや、そうじゃなくて、うん、多分そうだと思ってはいたんだけど…」

 土方は情けない顔をして、そこで言葉を切る。

「うん、昨日どうしたの?」

「…総悟が…俺は…お前に。…あっ、で、冷静に考えて、えと…俺、お前が好きみてェ…その、友達とかじゃねェ好き?…お前は、その…俺が、好き?」

 ……あぁぁぁっっっ!!何っこの可愛さっ!!
う、上目使いやめろぉっ!!つか、神様ありがとうっ!!いいデスカ?もう、何か止まらなくていいデスカ?俺、この世界から抜けらんなくていいっ!もう、いいっ!
 …しかし、だ。堪えろ銀時。頼れる男になるんだ俺っ!あんな話の後、押し倒したらマズイから、ほんと、マズイからぁぁっ!

「俺も土方くんが好きだよ。友達とかじゃなくて」

 俺の煩悩、出てねぇよな?冷静で懐の深い男にさせて下さい…。

「…ほんとうか?あんな事話した後で、可哀相とか、気の毒とか…」

「そんなんじゃねぇよ。多分お前が男でも女でも俺は好きになっただろうし、過去に何があろうがそれで左右されねぇよ。さっき言ったろ?お前が殺してぇなら一緒に殺っちゃうよって。俺だって物の道理がわかんねぇわけねぇだろ?でも、多分沖田くんも本気だろうし、俺も本気だよ?それにさ、昨日、お前と繋がっていてぇって言ったじゃん?」

「…でも、お前は女の方が…」

「ん〜、そりゃさ、考えてもみなかった。こういう展開は。男が好きってわけじゃねぇしさ。けど、関係なくね?誰かを好きになるのに、年齢とか性別とか関係ねぇんじゃね?第一、気持ちなきゃ、いくら俺だって男にキス出来ねぇよ?だろ?」

 土方はそれまでにない程顔を紅くし、コクリと頷くと、潤んだ目で俺を見て言った。

「…だったら…、お、お前に…お願いしたい事が、あ、あるんだ」

「うん、俺に出来る事があるなら言って?」

「…お、俺を…レイプ、してくれるか?」






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