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For real?
W《R18》


 俺は今でも男の中じゃ細身の方だが、高校に入る頃までは背もそう高くなかったし、今よりもっと華奢だった。
 親戚の連中はもっと幼かった頃、よく女の子みたいねなんて言ってたけど、運動神経も悪くなく、体力もあった俺を何故そんな風に言うのかわからなかった。

 実際、小さな頃から総悟とは取っ組み合いの喧嘩もしていたし、ナヨナヨしてるつもりは全くなかったから、暇な時間は本に夢中になってる事がそう思わせるんだろうかと考えた事もある。
 けれど、負けず嫌いで思ったまま何でも言う性格で、中学の制服を着る頃にはそんな言葉も聞こえなくなった。と思っていた。


 中学では総悟と同じクラスになる事はなかった。
 郊外のその地域はその数年前から集合住宅の建設や小さな畑の宅地化が進み、俺達が入学する頃には、この小子化のご時世の中、マンモス校と言われる中学のひとつになったからだ。
 部活は一緒だったから、総悟と全く接点がなかったわけではなかったが、小学生までのように、始終一緒というわけでもなくなった。

 もし…、もしクラスが同じだったとしたら、聡い総悟はすぐに気が付いたろう。
それでなくても異変に気付き、かなり長い間執拗に問い掛けられたのだから。
 その時、総悟に話せば良かったのかもしれない。その後今までの長い付き合いの中で、きっと話したところで離れていったりはしなかっただろうと確信している。
 けれど、当時は怖かった。もし誰かに知られてしまったら、きっと俺は見捨てられてしまう、誰も俺に笑いかけてはくれなくなる。まかり間違って、総悟以外の人間に蔑まれたとしても我慢は出来るだろうが、幼い頃から傍にいた総悟に軽蔑される事だけは嫌だった。
 もちろん、総悟にも言えない事を親に言えるわけもなく、俺はあの時、一人でそれに向き合うしかなかった。子供だったのだ。それはわかってる。

 まだ、「恋」に恋するような年齢で、好きだと女子に告白されてもどうしたら良いものかわからないような子供だった。

 同級生の中には彼女を作って毎日一緒に帰るようなヤツもいたが、そうまでしたいと思う相手も当時の俺にはいなかった。男も女も含め大勢でわいわいやっていればそれが一番楽しくて、行き帰りは当たり前のように総悟と一緒だったし、それをやめようとまでは思っていなかったから。
 確かに思春期特有の身体の変化はあったし、友達がその兄貴や父親が隠しているエロ本をこっそり持ってきて、裸の女にドキドキしたり、帰ってから自分で抜いたりした事はあった。けれど実際に同年齢の女を抱くのにはまだまだ恐怖があったのを覚えてる。

 そんな時だった。あの男にレイプされたのは。



 そのクラスは何かと行事で盛り上がるクラスで、放課後ぎりぎりになるまで活気に溢れ、時間が足りない時は誰かの家で作業するのが普通だった。
 幾つかのグループに分かれて担当するものをこなして行くので、同じグループの奴らの中で、遅くまでお邪魔しても大丈夫な家が順番に集合場所になっていた。文化祭や壁新聞やらの下準備だったと記憶している。

 その日、ある家が集合場所だと言われ、俺は何の疑いもなく夕飯を済ませるとその家へ向かった。
 そいつは正直苦手なタイプで、違うクラスの総悟も毛嫌いしているヤツだったから、同じグループになったのは不運だと思っていたが、なってしまったのは仕方ないし、それまで俺に何か嫌な事をしてきたわけでもないので、拒否する理由もなかった。

 少し遅れたかなと急いでソイツの家へ行くと、玄関には靴が並んでおらず、家の中も静かだった。

『…みんなは?』

 ここが部屋だと言われ、その男の部屋に入ってもやはり誰も居ない。不審に思いそう聞くと、背後でドアの鍵が閉まる音がした。
 何かおかしいと振り向くと、嫌な笑みを浮かべたソイツがドアの前に立ち塞がり

『お前だけだよ、土方』

 と嗤って言った。

『…なら帰る。どけ』

 その笑い方に嫌なものを感じ、そう言って部屋を出ようとした俺の肩を掴むと

『全部、お前のために準備した。お前が悪い。お前が誘うから』

 そう言っていきなり俺を押し倒した。

 ソイツは中学生にしては体格も良く、圧し掛かられた途端、本気でマズイと思った俺は、何とかその体勢を崩そうともがいたが、次の瞬間目の前がチカチカして両頬がカッと熱くなった。
 何だと言おうとしたが、唇が痺れて声が出ない。思い切り叩かれたのだと、それでわかった。

『へぇ、そういうプレイが好きなんだ。知らなかったよ』

 驚愕している俺にソイツは構うことなく、淡々と言葉を紡いで行く。

『…離せっ!何のつもりだっ!俺は帰るっ!』

 頬の痛みで涙が滲んだが、わけのわからぬ暴力に屈したくなくて、構わず声を張り上げた。

『ああ、いいね、土方の泣き顔。でもだめだよ、離してはやらない』

 そう言うと、俺の両腕を用意してあったのだろう、太い紐でソイツのベッドの脚に括りつけ、それでも抗う俺を満足そうに眺めた。

 これから何をされるのだろう。切り刻まれるのか?殴られるのか?どうしたら抵抗出来る?

 『土方さんと同じクラスのアイツ、いい噂聞かねェんですよ。大体あのツラからして嫌なオーラ全開だねィ。アンタも気を付けなせェよ?』総悟の言葉が脳裏を過ぎる。


『俺はね、土方が好きなんだよ。だから土方も俺だけ見て欲しいわけなんだよね。いつもあの沖田とかいうヤツと一緒に居るの見て、すっごく嫌だったんだよ。今日からは俺がお前の恋人だから』

 うっとりと話すその男の台詞にゾッとする。

『テメェ何言ってんだよっ!総悟は恋人なんかじゃねェし、お前とそうなるつもりもねェ。第一テメェも俺も男だろうがっ!ふざけた事言ってねェで、この紐ほど……っ!!』

 言い切る前にまた頬を叩かれ、唇が切れたのがわかる。

『わかってないね、土方は。男同士でもセックスは出来るんだよ。恋人になれる』

 その言葉に痛みを忘れ、何をされるのかとそれまでの人生で感じた事のない恐怖が襲った。

 暴れる俺をニヤニヤ嗤いながら、ジーンズとトランクスを降ろし、俺の中心をしばらく眺めてから扱きだしたソイツに吐き気がした。

『!!離せっ!やめろっ!テメェっ!!』

 半狂乱で騒ぐが、ソイツの顔からは笑みが消えず、

『俺達以外、誰もいないよ。大丈夫。気持ちよくするから』

 と、止める気配はない。その上俺のシャツをめくり上げ、俺の胸を舐め出した。

『…ひっ…やめ…やめろぉっ……』

 ソイツの熱い舌が突起を捕えると、その感触が堪らず、身を捩るが離してもらえない。

 片足に纏わりついたジーンズとトランクスなど気にも留めず、ソイツは両脚で俺の脚を抑え中心からも手を離さない。その手つきは男同士だからか感じる所を的確についていて、気持ちとは裏腹に芯を持ちだしたのがわかり愕然とした。

『ほらね、気持ちよくなって来ただろ。土方って綺麗な顔して淫乱なんだね。俺の恋人にぴったりかな。ほら、乳首も勃ってるし』

『…いや…だっ!離せっ…ぅっ…やめっ…』

 それでも抵抗する俺へ、ソイツは『素直にならないコはお仕置きだね』と、両足を持ち上げ大きく開くと、トロリとした何かを股間へ垂らし、綿棒を俺に見せつけクスクス嗤う。


『これで、何すると思う?』

『…やめろって…言ってんだろう…がっ!!』

『だからね、お仕置き』

 そう言うと、垂れたその液体に綿棒を擦り付け、ソイツの手の中で、反応しはじめた俺の中心へ綿棒を近付け、先端を何度か弄ると、尿道へ押し込んだ。

『…ひぃぃっっ!!いやぁぁぁっっっ!…やめっ…痛いっ!ぬいてぇぇぇっっ!!』

 余りの痛さに堪えられず、涙が溢れる。これなら殴られる方がましだ。
 しかしソイツはその綿棒を上下させ、中心を根元から扱き上げる。

『だめだよ、お仕置きなんだから。でもね、俺は優しいよ?コレだってそのうち、気持ち良くなるから。それとも何?俺の恋人になる?』

『…やめっ…もっ…やめっ…』

 痛みに朦朧とし、言葉すらハッキり喋れない。けれど、この男のいいなりになどなりたくない。
 これは暴力。暴力なんだから。

 首を縦に振らない俺に不満気な顔をしたソイツは、グイッと綿棒を深く挿し、悲鳴を上げた俺に嗤うと、『まあいいけどね』と言いながら今度はあり得ない場所へと手を伸ばしていった。

 コイツは狂ってる。どうかしてる。やめろっ!やめてくれっ!

『ここね、多分抵抗出来ないよ。知らないだろうけど男はココの奥に感じるトコあるから』

 俺の事などお構いなしにそう言うなり、ズブズブと濡らした指を俺の後ろへ埋めていった。

『…やめっ…ろぉぉっっ!!うぁぁっっ!!』

 綿棒を入れられた痛みで後ろの痛みは我慢出来たが、違和感で気持ちが悪く、何よりそんな場所に指を入れられている事に絶望感が募った。

 そんな俺の顔を酷薄の笑みを浮かべ見ていたソイツは、そのまま指を奥まで入れると中を弄っている。
 痛みと気持ち悪さと、屈辱感で吐き気が込み上げ涙が止まらない。
 もう止めてくれと心で何度も叫んでいると

『ここだ』

 ニヤリと嗤ったソイツの言葉とともに、嫌悪感とは別の何かが身体を走った。

『…ひぃぃっっ…ぁぁぁっっ…んぁ……』

 考えられない声が自分から洩れた事に驚きつつ、声が抑えられない。

『お前がいけない。お前が犯りたくさせるから』

『本当にはじめてか?他の男、咥えこんで来たんじゃないのか?』

『俺のせいじゃない。お前がその気にさせている』

『お前は俺のものになるしかない』

 指で散々後ろを弄られ、声も嗄れた頃、ソイツは嗤ってそう言いながら俺の中に自身を埋め、何度も俺の中に欲望を弾けさせ、俺も自分の意思とは裏腹に、無理やりイカされた。

『バラされたくなければ俺の恋人になるしかない』

 ソイツが満足した頃には俺は身体も心も疲れきっていて、得意そうに携帯に収めた写メと動画を見せつけられても何も感じなくなっていた。

 言いなりになる事、ソイツ以外と仲良くしない事、誰にも言わない事を何度も約束させられ、ようやく帰宅した俺を迎えた母親は、切れた唇と、腫れた顔に驚いていたが、喧嘩をしたと言う俺へ、それ以上追及もせず、風呂へ入って寝なさいとだけ言うと、居間へと引き上げて行った。

 ヨロヨロと風呂場へ行き、痛む身体を引き摺り湯船に浸かると、俺は穢れたと自覚した。
 あの瞬間まで、俺は普通の中学生のはずだった。

 何であの家に上がってしまったんだろう。何故玄関から引き返さなかったんだろう。総悟もあれほど、アイツには気を付けろと言っていたのに。
 けれど、抵抗らしい抵抗すら出来なかった。勝手に好きなようにされ、身体中触られた。

 悔しさでまた涙が込み上げ、俺は風呂場で声を殺して泣いた。



 当然翌日、総悟は俺を問い詰めたが、どうしても話す事が出来ず、総悟を怒らせてしまった。
 しかし、その事で胸が痛む間もなく、それを見ていたソイツに強引に腕を引かれ、ひと気のない場所で、目立たないよう服に隠れる部分を殴り蹴りされ、「沖田とつるむなと言っただろう?まだわかってないのか、放課後また家に来い」と言われた事の方が辛かった。
 何より、それを拒めない自分が…。


 どのくらいその悪夢のような日々が続いたろう。
 最初の数回こそ、抵抗し、激しく殴られていたが、そのうち大人しくしていれば、少しでもその時間が早く終わると学習した俺は、ソイツの望むまま醜態を曝し、喘ぎ声を上げ、腰を振り、ソイツのモノを口に咥えるようになった。
 しかし、そうしていても、俺の中には「これは俺の望む事じゃない」という強い気持ちはあって、時々それが出てしまうらしく、そんな時は容赦なく殴られた。
 ソイツも馬鹿じゃないらしく、顔は平手で殴ってきたが、俺の腕や脚は常に打撲や切り傷で埋まる程だった。

 身体の事はそれでもその最中、心と体を別々にする術を学んでいたが、時間が経つにつれ、本気でソイツを憎み、殺したいと衝動が沸く自分の気持ちの方が問題だった。

 物心つけば、どんなヤツだってテレビや周りの大人の話で、誰それが誰かを殺しただの、自殺へ追いやっただの聞くようになる。
 けれど、それは自分とは別の世界だと普通の中学生なら思うだろう。人を殺めるなんていうのは、正気を失った人間にしか出来ない事じゃないのか?

 なのに、俺は本気でソイツを殺すことばかり考えるようになっていて、そんな自分を激しく嫌悪していた。
 多分、あの時、ソイツの父親が何かがおかしいと会社を切り上げ早く帰宅しなかったら、俺は本当にソイツを殺していたかもしれない。
 想像の中では、切り刻む、全身の骨を折る等々、スプラッタ映画も顔負けのシナリオが幾つもあったから。


 その日、俺の中に自身を埋めながら俺を殴っていたソイツの部屋へ、その父親はいきなり入って来た。
 最初の日こそ、部屋に鍵をかけていたソイツも、脅す道具が出来た後は俺が逃げる事はないと油断していたのだろう。

 父親はソイツの襟首を掴むと無言で俺から引き離し、思い切り殴り付けた。
 唖然としているソイツには構わず俺の前に座ると、『済まない、済まない』と言いながら乱れた服を直し、『病院へ行こう』そう言った。
『何でもする。君の親御さんにも頭を下げる。でも、まず病院へ行こう。本当に済まなかった』と。

 (病院へ行く?俺の親に頭を下げる?……冗談じゃない…)

 殴られた身体も、今までソイツが入っていた場所も、何もかも痛かった。
 けれど、俺の気持ちはどこか冷えていて、泣きながら『俺のせいじゃない』と喚く男も、必死で謝るソイツの父親もどうでも良かった。


『…何でもしてくれるんですか』

『も、勿論だ。君の言う通りに、何でもするつもりだ』

 そう言ったその父親は、息子とは違いマトモなのかもしれない。

 けれど、俺の望みは…

『俺の親に頭下げられるなんて迷惑ですし、病院へ行って何があったか説明するのも冗談じゃありません。でも、何でもしてくれると言うなら』

『…言うなら…?』

『息子さんを二度と俺の目の前に近付けないで下さい。じゃないと、俺、殺しちゃいますから』

 ソイツの父親は目を見開き、その後苦痛に耐えるような表情をして、

『……わかった』

 そう呟いた。


 俺はそのまま何も言わず、その場を去った。
 あの父親へ言ったのは紛れもない本音だと今も思う。金でも、病院でも、告訴でも、きっと望めば差し出されたろうし、何らかの処罰の対象に出来たかもしれない。
 けれど、そうしたところで、以前の俺が戻るわけじゃない。それより、狂ってる獣のようなヤツが二度と俺の視界に入らない方がよほどいい。

 次の日からソイツは学校へ姿を現さなくなり、そのうち遠くへ転校したと担任から告げられた。



 男でも女でもレイプは珍しくはない。けれど、俺が一番つらかったのは多分「殺意」を知った事だ。
 感情が昂り、制御出来なくなったら、きっと俺は他人を殺めてしまうだろうと思った。ならば、不要に他人に近付く事なく、近寄らせなければいい。
 だからこそ計算した笑顔を作り、拒否するのではなく、ソツなく対応する事によって、人と距離を取る術を手に入れた。それで巧くいっていた。

 いってたんだ……。





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