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For real?
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 それから銀髪は、俺の前に始終姿を現わしては、何のかんのと俺に話しかけて来るようになった。

 俺と総悟は学部こそ違うが、一年生は一般課程の履修数も多い。そんな時は学部を越えて授業を受けるので当然同じ教室にもなるわけだ。
 銀時は(あの銀髪がそう呼べと言うのでそう呼ぶようになった)総悟と同じ学部らしく、何でもあの神楽の従兄弟で、総悟ともウマが合うらしい。世間は狭いよな…。

 まあ、それは良いのだが…。

 総悟と銀時の周りにはいつも何人もの女がいて、そいつらは俺にも何かと話かけて来る。
 中にはサバサバとして気持ちの良い娘もいるのだが、相変わらず「特別に好き」センサーには反応しない。
 それよりも、総悟と悪だくみでもしているかのようなクツクツ笑いをする銀時の震える肩や、フとした時に、髪を掻き上げる仕草を目で追ってる自分がいて、そんな自分に眉を顰める。

 「今日の三限、旦那と俺の席、取っといて下せェよ」

 その朝も当然のように言った総悟に渋々頷いていた俺は、授業の始まる前のガヤガヤとした教室で、約束通り先に座っていた。



「ねぇねぇ、土方くん、メアド交換して?」

 爽やかな女性らしい香りにハッと顔を上げれば、くっきり二重瞼で笑顔の可愛い女が恥ずかしそうに俺を見ている。

「…俺の?つか、俺の名前知ってるのか?」

「ふふっ、銀ちゃん、沖田くん、土方くんって言ったら知らない娘いないんじゃない?皆、狙ってるもん。で、メアド教えてくれない?」

「…そうなのか?…そのメアドは…」

 と応えた俺が、その先を続けようとすると、引き攣った顔の総悟が慌てて飛んで来て

「土方さん!だから、あっちですんで、ほら早く!あ、アンタまた今度にして下せェよ、俺ら急いでいるんでっ!」

 わけのわからぬ事を突然言い出し、俺を無理やり席から立たせると、唖然としたその娘を残し、教室から押し遣る。

「ま、待てよっ!テメェ何すんだよっ!あの娘、結構良さそうだったじゃねェか!テメェが恋しろだとか何だとか言ったんじゃねェんか?」

「…そりゃ、そうなんですが、見てらんねェでしょう?」

「…何がだ」

「アンタ、さっきあの娘に何て言おうとしてたんで?」

「……………」

「メアド交換して何すんだ?用でもあんのか?とかなんとか、言うつもりだったんじゃねェですかィ?」

「……………」

 総悟は「やっぱり…」と溜息をついた。

「アンタが真面目にそう言ってんのはわかってやすがねィ、そうじゃねェんですよ、恋ってェのは…」

「……………」


「恋ってのはよ、些細な偶然ときっかけで生まれるモンなんだよ、土方くん?さっきのあーいうのは、気になる相手へのアプローチ。用がある、なし、じゃねーの、わかる?」

 総悟の困った顔に反論しようとした時、突然後ろからフワッと甘い香りがした。
 そう思ったのと、同時に俺の肩へ顎を乗せた男に俺は驚き、

「!!!うぉっ!!」

 と変な声を上げながら思い切り突き飛ばしてしまった。

「―――痛って〜よ、オイっ!もうっ、土方くんったらぁ!生娘じゃあるまいしぃ〜」

 銀時は廊下で打った腰を擦りつつ、恨めしそうな声を出した。

「!!ばっ、ばっ!テメェ、いきなり後ろから何してくれとんじゃァッッ!!」

 また全身がカッと熱くなり、恥ずかしさのあまりそう叫べば、総悟が目の前でその大きな瞳を見開き、口をポカンと開けている。


「……あっ……」

 周囲も、叫んだ俺、腰を擦る銀時、呆然とする総悟を凝視している。さっき俺に声を掛けてきた娘も教室の扉から顔を覗かせていたが、引き攣った顔をして此方を見ていた。

 …そうだった。ただでさえ、人気のある教授の授業が始まる直前で人が多い上、コイツらが居るところ、まるでアイドルの追っかけみてェに女が群がってるんだった…。

『…今の土方くん?いつも穏やかで感じのイイ土方くん?えー?ほんとにぃ?』

『うっそ〜、意外だよねぇー。銀ちゃん何やったのぉ?』

 そんな声が周りから聞こえてくる。

 (……い、いたたまれねェ……)


「…わ、悪かったな、銀時。吃驚しただけだ…。おい、総悟、代返頼む。じゃあな」

 二人と周囲を見ないよう目を伏せ、やっとの事でそう言うと、俺は逃げ出したとは思われない程度に早足で、その場から立ち去ることにした。

 だから俺の背中をみつめる総悟が目を細め、「…ふうん」とニンマリ笑った顔も、「アイツ教科書置きっぱなしじゃね?持ってってやんねぇと困んじゃねぇの?」と銀時が呟いた事も、全く気が付かなかった。


   *****


 沖田くんの「昔はそーじゃなかった」って言葉と、俺が何かを言う度に穏やかで冷静なはずの、その整った顔が紅く染まるギャップに、普段は物事にあまり執着しない俺が、気付くといつも黒髪を探し、目で追いかけるようになるのに、さほど時間は掛からなかった。

 神楽との惚気を聞かされるのには閉口したが(だって俺はアイツがお洩らしして泣いてた頃から知ってんだぞ?同じ年で仲は良かったけど、女として見た事なんかねーんだもん)沖田くんは何考えてんのかわからねぇとこあっても面白いヤツだし、一緒に居れば黒髪との接点も増えるわけで、本音の上手な出し方とか?感情的になるのは一概に悪い事じゃねーとか?あくまで俺の知る範囲で、俺の考えでしかねぇけど教えてやりたくなったんだよな。

 …好きって何なのか、とか?近付きたいって何なのか、とか?ドキドキする気持ちとか?…………。

 いやいや、これは要するに、今まで俺の周りに居なかったタイプの人間に興味が沸いたっつーアレで、あの綺麗な顔が理性を失くすとこが見てぇとか……。


 ………見たくねぇからっ!つか俺は所謂オブザーバー?アドバイザー?知らねぇけど、そんなんだから。 しかも沖田くんの一方的な交換条件だっただけだからっ!

 とは言え、沖田くんの言った通り、アイツは本当にモテると思う。むやみに愛想が良いわけじゃねぇけど、あの一見冷たく見える顔が、誰かに話しかけられると柔らかくなって……。

 コンパをしてる飲み屋で沖田くんとアイツを見た時、一緒に笑ってた女の子達の事は俺の頭から一瞬にしてデリートされた。
 あれから教室で会った沖田くんに、「コンパやるから、土方くんと来てよ」と言うと、「気が向いたら行きやす」なんて返事だったから、来るのかどうか半信半疑だったのだ。

 黒髪は大勢の中で少し戸惑った顔をしていたが、物怖じしない(つか、永遠にしそうにない)沖田くんに呼ばれると、声をかけて来る女の子達にソツなく挨拶をし、腰掛けた。
 控えめに周りを窺ってるソイツが探しているものに思い当たり、俺はソイツの目の前に、そっと灰皿を置いてやった。
 すると黒髪はフッと俺を見上げ、口を開いたんだがその綺麗な目と、男にしちゃ木目の細かい肌と、少し掠れた声に心で警報が鳴った。

(やべぇ…)

 勿論、平静を装い、いつもの調子を崩さなかったが、その黒髪の顔がほんのり染まって見えたのは気のせいか?
 何か沖田くんの言ってたのと違くね?

 しかもだ。それ見て俺の「器官」の幾つかが何かを主張したのは……気のせいだろう…。
 うん、気のせい。だって、確かに綺麗なんだけれども、男だしよ。

 沖田くんの一方的な交換条件など、正直忘れたフリをしようかとか、黒髪の周りに群がる女の中から何人かピックアップでもして適当に恋愛指南でもしときゃいいかななんて、そう思っていたんだけどね。

 なんだけれども、イイ男ってぇより、何かこう目が離せなくなったっつーか、うん、むしろ積極的にお近付きになりてーっつーか…よくわかんねぇけど、俺がワタワタさせてみてぇ…みたいな?おかしな気分になったのは確かだった。



 飲んでる間も黒髪は、俺や沖田くんみてぇに自分からガンガン喋りまくったりはしなかったけど、聞き上手ってヤツなのかな、どんな話題でも嫌がる顔することなく笑顔を絶やさずに話していたように見えた。
 それに、酔いの回り始めた女の子達が腕を絡めたり、肩に頭を寄せたりしてきても、相手に悟られぬよう、そっと元に戻してやったりしていたしな。

 沖田くんに聞いてなけりゃ俺も女慣れしてるヤツと思ったかもしれねぇけど、その姿とさっきの顔にギャップを感じて、俺はもう一度試してみたわけだ。

 もう帰るという沖田くんとアイツに、勿論女の子達は大ブーイング…になりかけた。
 まあ、あの二人目当ての娘が大半だもんな、そりゃわかる。

「飲むのはこれが最後じゃねぇし、またやろーぜ!」

 そう場を治めてやってから、黒髪に近付き、その耳元で囁いてみた。

「…またね、美人さん」


 やっぱり、さっきのは見間違いじゃねぇ。俺の何かがコイツの何かに反応している。
 そうわかったら、柄にもなくドキドキして残った女の子達にバレねぇよう、いつも以上にはしゃいでいたら、結局長谷川さんに部屋まで引きずられて帰るハメになった。



 教室で結構可愛い娘にアプローチされてる姿を見て、何故かその娘を突き飛ばしたくなった俺だったが、それにアイツが応える前に、あわくったみてぇな沖田くんがアイツの腕を引っ張り、教室から出て行くのを見て、俺も教室を後にした。

 沖田くんの台詞を聞いて「あぁ…」と納得。

 「そこだけ抜けてる」のが何かわかった気がする。多分あの美人は「好き=一緒にいたい=エッチしたい」とか、「メアドが欲しい=きっかけが欲しい=もっと近付きたい」なんて構図がわからないのだ。
 台無しにしたと言っていたのはきっと、「付き合って」と言われて「付き合うって何すんだ?」くらいに応えていたのだろう。あれだけソツのねぇアイツにそう言われたら、大抵の女はフラレたと思うだろう。

 …うん、何かわかった気がする。まあ、本人は真面目に聞いてるんだろうけど…沖田くんの言い方からすると。

 何かウズウズする。…コレ、何だろう。わかるけど、わかりたくない気がする…。
 けど俺は、本能の赴くまま、アイツの肩に顎を乗せ、思いつくままの台詞を言っていた。

 (あ…いい匂い…すげ、髪さらっさら…)

 そんな考えは思い切り突き飛ばされ尻もちついた事でどこかへ行っちまったけど、慌てたようなアイツの顔はやっぱり真っ赤で、…何かムラムラした…。



「…へぇ、こりゃ予想外の展開で」

 その台詞にハッとして隣の沖田くんを見れば、「悪い笑み」を浮かべ、

「…ふうん、意外ですが、ある意味、俺の選択に間違いはなかったんだねィ」

 と俺を見ている。

「……何のこと?」

 いつものゆるーい顔でとぼけてみたが、

「別にィ?恋愛指南、よろしく頼みますゼ、旦那。ああ、あのヤローの住んでんの、俺と同じマンションの別の階なんで、入口にポストがありやすから、すぐ部屋はわかりやすよ?あのヤローは律義に名前書いてやすから、ポストに。忘れちまった教科書、届けてやって下せェよ」

 当たり前のように言われる。

「…だったら沖田くんが届ければいーじゃねぇの?」

 と言う俺の反論は、

「いやァ、俺は今日、神楽んとこ行く予定なんで」

 シレっと却下された。






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