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For real?
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「…へっ……?」

 冷静な仮面は一瞬にして剥げ落ち、残されたのは馬鹿ヅラしてフリーズした俺だった。
 今、何て言ったの、コイツ…。俺を好きだと言って、俺の気持ちを聞いて、んで、んで、

 ……レイプして欲しいですとぉぉぉぉっ!!!

 いや、なんか俺の聞き間違い。うん、あんな話聞いて、そんな単語が頭に残ってて、他の言葉とすり替わったに違いねぇ。しかも、それでコイツは散々嫌な思いして、傷ついて、殺してやりてぇとか思うくらい思い詰めて。

 えっ…、もしかして、俺にさせて俺の事殺してぇとか?ソイツの代わりに?

 いや、何でもしてやりてぇけど、そりゃ、好きだけど、気持ち伝えあった途端に俺、殺されちゃうわけ?叶えてやりてぇけど、でもせめて恋人の真似事とか?なんかそんな事ちょこっとでもしてから…とか?
 いや、でもマズイだろ?惨殺死体、沖田くんあたりが見つけちゃったりすんのか?……

 えーーーーっ?!



「…えと……無理、だよな?…ごめっ、俺、帰るっ…」

 涙で一杯になってる瞳で土方は立ち上がると、俺の脇をすり抜け、出て行こうとした。

「ちょっ!待って!待って、土方くんっ!」

 俺は咄嗟に立ちあがり、後ろから羽交締めにした。
土方はなおも振り切ろうともがいたが、このまま帰らせるわけにはいかねぇ。

「待って。待ってよ、ちょっと待って。驚いただけだから。ほんとにそれだけだから」

 土方は身体を固くして、返事をしない。

「ごめん、悪かった。ちゃんと聞くから。お願いだから帰らないで。ね?だって普通、好きなコにそんな事出来る?俺達まだキスしかしてねぇのに。それに、俺、するなら二人で気持ちよくなりてぇよ?な?わけを話して?何であんな事言ったの?」

 脅えた動物を撫でるように、まだ戸惑う気持ちを隠し、なるべく穏やかに問い掛けた。

「……………」

「…ソイツの代わりに俺の事、殺しちゃおうか…とか?」

「!!ちがっ!そんな事考えてねェ!」

「わかった、わかった。うん、聞いてみただけ」

 笑って言ったけど、本音はものすごくホッとした…。よ、良かった、マジで…。坂田銀時、まだ命を繋げる事が出来ましたっ!!

「だってね、土方くん、もの凄く嫌だったでしょ?脅されて、自由を奪われて、勝手に…その…。沖田くんにも話せないほど、辛かったんでしょ?俺だって、自分がそうされたら死にたくなるよ、きっと。なのに、どうして俺に頼んだの?聞き間違いじゃないよね?」

「………だったから……」

 俺の腕の中で、聞き取れない程小さな声で土方は言った。

「ん?何?」

「…嫌だったから………」

「うん、きっとものすごく嫌だったよね?」

「…違くて…お前の一言でフラッシュバックしちまうなんて…もう、嫌なんだ」

「嫌ならなんで?俺、土方くんの嫌がる事、しねぇから。大丈夫だから」

「…だから…、お前があの時を塗り替えてくれたら、そうしてるのは、俺が好きなヤツで、俺を玩具にするヤツじゃなくて……そしたら…」

 そうか…。そういう事だったのか。コイツはコイツなりに、俺に対する気持ちを受け入れようとしていて、でも、あの時の事と、俺との行為を重ねる自分が嫌なんだろう。
 まあ、行為前提ってとこが既に負の産物ではあるが。
 そりゃ俺は何でかコイツに欲情しちまうけど、これだけ恋愛に疎いヤツは、ほんとだったら手ぇ繋いで、デートして、キスしてって段階踏みたがるはずだと思う。セックスに直結しちまうコイツが何だか可哀相で、でもその中でコイツなりに考えてくれた事が愛しかった。

「いいよ。してあげる」

 気持ちが纏まる前に、俺はそう言っていた。
土方はいきなり振り向いて俺を見たが、その瞳からポロリと涙が零れるのを見て、また俺は自分に言い聞かせる。
 今はダメ。衝動よ、立ち去れぇ!!止めて、ほんとに、お願いっ!!

「…でも今日はしない」

「…えっ…?」

 聞き返すその唇が薄く開いているのを見て、俺は意味もなく円周率を頭で唱え始める。

「昨日、お前も俺も寝てねぇし、酒も入ってる。何より、昨日今日で考えた事だろ?」

「でも……」

「二三日間を置こう。あ、この件な?で、それでもお前が望むなら、俺はお前とのはじめてが、そうでも構わない。その時を再現しよう。いい?」

 土方は身体の力を抜き

「…わかった…ありがとう」

 そう言った。

「…でな?えーっと、土方くんの事、十四郎って呼んでもいいかな。で、ものすごくキスしてぇんだけど、今してもいい?」

 躊躇いがちに目を伏せた土方の、耳が紅く染まったのを了解のしるしと受け取って、俺はそれまでとは違う意味で抱きしめると、優しくキスをした。

 土方が帰った部屋で、俺は股間を押さえ、見悶えた。良く我慢した、俺!偉いぞっ、俺!

 もう爆発しそうですけど…。あーやべぇよ、マジで。キスした後のアイツのうっとりした顔、やべぇよ…。泣きてぇよ、俺…。あの顔で抜けそ…。



 翌日学校に現れた俺を見て、沖田くんは目を丸くしていた。

「なんでィ、まだベッドでイチャコラしてやがるだろうと思った俺の妄想を返せっ!」

「…あのねぇ…、遅かったけど、土方くん昨日帰ったよ?今日は授業が午後からだって言ってたけど」

「へぇ、旦那って奥手だったんですかィ?それとも好きなコには手ぇ出せねぇってヤツですかィ?…アンタ…まさかっ!!散々ヤった後に土方さんを帰したんじゃねェだろうなっ!!」

「……んな事するかぁぁっっ!ヤるならお泊りしていただきますよ?俺を何だと思ってんの、沖田くんは。ヤるだけが目的じゃねぇし、ヤったらピロートークくれぇ俺だってするってのっ!ヤったら帰れみてぇな真似、大事な十四郎にするかってんだよっ!!」

「……旦那、声通ってやすけど…」

 周りに居た男子学生がさささと引いて行き、女子学生が笑いながらコソコソ話はじめてるのが見えた。

「…あっ………」

「プククッ、しかも十四郎とか言っちゃって。これで、この学校のプリンスは俺で決まりでさァ。旦那も土方さんも結構モテてたのに、ホモとわかったからにはねィ」

「!!こんの悪魔がっ!!沖田くんが振って来たんでしょ?!つか、プリンスって何よ。…まぁ、いいけどよぉ」

「…いいんだ……」

「だって、しょうがねぇだろ?たまたまとはいえ、男同士なんだもん」

「もん、とかやめて下せェよ、全く。…でも、旦那、ありがとう」

 突然沖田くんは真顔になり、俺に頭を下げた。

「いや、何言ってんの、沖田くん。お前がありがとうとか、槍でも降って来んぞ?俺は何もしてねぇよ。沖田くんがずっと居たからアイツはしゃんとしてられたんだろ?仲良しなんだか、なんだか、お前ら見てるとわかんねぇけど、お前らの繋がりには敵わねぇからさ?だろ?んな事言うなら、神楽大事にしてくれればいいんだよ」

「…そりゃもう、どんな女も羨む程に、大事にしてますぜ?俺ァメロメロなんで」

「……………」

「普段、生意気言ってる女が、ベッドに入ると……」

「!!!いいからっ、も、それ以上いいからっ!わかったからっ!神楽のソレ、想像したくねぇからっ!」

「いやいや、聞いて下せェよ、旦那」

「聞きたくねぇぇっっ!!」

「…ほんとに、旦那、ありがとう」

 笑って言った沖田くんの頭をワシャワシャかき混ぜ、俺は頷いた。
 沖田くんは本当に嬉しそうに笑っていたから。

「…アイツ来て、もし俺を探してたら、メールしてって言っといてくれる?」

「どうしたんで?」

 沖田くんと話をして、昨日の「約束」が急に現実味を帯びてきた事は、いくら沖田くんでも話せない。
 俺は、二三日、考えてみろと言ったけれど、多分アイツの決心は変わらないだろうとわかっていた。
 だったらせめて、知識だけでも男同士のナニの仕方を知らねぇと、アイツが望む形にはしてやれないだろう。
 俺はその知識が無くても、十分アイツに反応しているし、はっきり、「してぇ」と思っているが、生憎というか、当たり前というか、普通というか、女とはあるが男とソノ経験がない。そんなに変わるとは思えないけれど、そもそも身体の構造が違うわけだし、どうせ抱くなら、それがレイプの真似事だろうが少しでも楽に、でもって、出来るなら痛みではなく気持ち良くなって欲しいしな…。
 あの時を再現するんだから、そう簡単じゃねぇけど。

 今日学校へ来たのは、学校の図書館にならパソコンがあるだろうと思ったからだった。
そうそう授業をサボるわけにはいかねぇが、この件が落ち着くまで俺は気が気じゃねぇし、講義に集中出来るとは思えなかった。
 でも考えてみりゃ、図書館で調べるにはちょっと気が引ける内容だよな。そう思った俺は、駅前まで出て、ネットカフェで調べようと思いついたわけだ。

「あ、ちょっとな。大した事じゃねぇから。戻れたら午後から戻るけど、ちょっとわかんねぇ。駅前に出て来るからよ」

 沖田くんにそう言うと、俺は手を振り確かあの辺にあったはずだと、曖昧な記憶を頼りにネットカフェへ向かった。

 

 ………。こ、個室で良かったぁぁぁっ!!学校で調べて、万が一知り合いに見られたら何言われっかわかんねぇよ。いや、土方とお付き合いしてんのがバレようが構わねぇけど、やっぱ、これは恥ずかしいもんな。大事な事だけど…。
 本当ならノリでいくもんだろうけど…。

 つか、どこですりゃいいんだろ。アイツの部屋なのか、うちなのか。
 具体的にどんな風にされたのかまで、聞いてねぇし、何かエグい事まで再現しろとか言われたらどうしよう。アイツ、随分殴る蹴るされたみてぇだけど、それは勘弁してくれるよな?あの綺麗な顔が腫れたり、身体中痣だらけにする真似なんて、俺には出来ねぇよ?



 それから何日かは、あの約束の話はアイツからも出なかったし、俺もしなかった。
 避けて通れねぇのはわかっていたが、出来る事ならそんな真似したくねぇのが俺の本音だったし、アイツの決心が変わらなくても、急いでどうこうする事でもねぇだろうと思っていたからだ。

 同じサークルの奴らは、どうやら俺が土方を追い回してると思ってるらしく、散々からかわれたけれど、当の土方は、いつものように穏やかに笑っているので皆拍子抜けしたようだった。

 その日は金曜で、周りは飲みに行くだのこれからデードだの浮足立っていて、このまま土方から何も言われないなら、沖田くんや神楽も誘ってたまには飲みに行こうかな、などと考えていた時、マナーモードにしていた携帯が振動した。


『件名:       
 本文:これから、部屋に行っても大丈夫か?』

 フラップを開けてメールを確認すると、すぐ傍に居た土方が携帯を手に俺を見ていた。

『件名:Re      
 本文:大丈夫だよ。決めたの?』

『件名:Re:Re      
 本文:気が変わったか?』

『件名:Re:Re:Re   
 本文:十四郎は本当にいいの?』

『件名:Re:Re:Re:Re  
 本文:俺の気持ちは変わってない』

『件名:Re:Re:Re:Re:Re
 本文:わかった。待ってる』

 そう送信し、土方を見て頷くと、周りに気付かれないように土方も頷き、沖田くんに何か耳打ちすると、そのまま背を向け、仲間達の輪から離れて行った。





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