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お願いだから(シリウス)


「杖を捨ててくれ。なまえ」
「できないわ」


そう言って杖を構えたままこちらを睨む彼女に昔の面影はない。


純血の家系、優秀な成績、綺麗な容姿に誰にでも優しい性格。

全てを揃えた彼女は誰からも愛されていた。

嗚呼、何が彼女をこんなにも変えてしまったのか。






「そんなに警戒しないでよシリウス。貴方を殺したりしないわ」

あんなにも優しかった彼女が何故今は

「貴方こそ杖を捨てて頂戴?シリウス」


何故今は自分に杖を向けているのか。



「…っかんねえよ!」
「わからない?簡単じゃない。杖を捨ててシリウス。貴方と戦うのは嫌なの」
「そんな事じゃない!何故俺達を裏切ったんだ!」

裏切った、という言葉になまえは微かに反応したように見えた。


「裏切ってなんかない。私は元々こうだったもの」
「元々お前がこういう人間だったら俺が友達になったと思うか?」
「貴方は何もわかってない」


無表情に淡々と言葉を発する彼女が生きてる人間には見えなくて

何だか恐ろしかったし
悲しかった。


「貴方は強い人ね」
「ああ、だからここで負ける気はない」
「それだけ強ければ―…」


アズカバンでだって生きていけるわね。


そう言って無表情だった顔が悲しげに笑った。


「アズカバン?何を言いたいのかわからないな」
「そうでしょうね。」


やっと杖を下ろしたなまえが近づいて来て俺の頬を優しく撫でた。

その手はとても冷たかったけど触れられた場所は熱くて。


「ジェームズにリーマスにリリーにちびピーター。
貴方のご自慢のお友達…大事にしてあげる事ね」
「心配無用だ。それに誰も俺達の中に裏切る者なんていない」



満足げに笑った彼女はその場で姿くらましした。

意味がわからないことばっかり言われたし何より


この心が痛むのは何の呪いなんだろう?




**




「なまえ…どこへ行っていたの?」
「シリウスに会ってきた」


予想もしなかったであろう答えにピーターは目を真ん丸にしていた。


「会ったって…何か言われた?」
「俺達の中に裏切り者なんていない、だって。笑っちゃうわよね」
「そうか…」


沈んだピーターの表情になまえはそんな顔をして本当にみんなを裏切れるの?と言いたくなった。


「そんなに暗い顔しないでよ。もうちょっと堂々とできないの?貴方には頑張ってもらわないと」
「うん…」
「ああ、そういえばシリウスはアズカバンに入ったって元気に生きていけるらしいわよ」


笑っちゃうわよね?と言ったなまえの顔が今にも泣き出しそうなのに気付いたピーターは何も言えなかった。


「本当、馬鹿みたい」



ただ、彼を守りたい

彼が死なないようにできるのならば
裏切り者になるなんて簡単


だからお願い

死なないでね、愛する人。




080910.

#あとがき
ヒロインはシリウスを死なせないためにヴォル郷側についたって話です。
それでピーターが裏切ったって知ってるわけです。


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