昨日を後悔する今日にはしたくないから
今日を後悔しない今日にしよう
ただ人は考えたように生きられないものだから
今を精一杯、生きて
ジェームズとリリーのお墓に来るのはやっぱりいつも寂しい。
なまえはふぅ、と溜め息をついた。
今度はリーマスと連絡でも取って2人で来ようか。
連絡がつけばの話だけど。
そう思い2人の墓の前にしゃがみ込み花を供え始めた時。
「…なまえか?」
「え…?」
不意に名前を呼ばれて振り向くと、見知らぬ―…でも見覚えのある男が立っている。
「なまえ…だよな?」
「…誰?」
「おいおい…いくら久しぶりだからってそりゃないだろ。シリウス・ブラックだよ。」
「シリ…ウス?」
確かに、顔はあまり変わっていないような気もする。
だが自分の知っているシリウス・ブラックとは随分印象が変わってしまっていた。
「シリウス…なのね?」
「ああ。久しぶりだな。」
会話が少しぎこちなく聞こえるのは気のせいだろうか。
「ばか…リリーとジェームズがいなくなっちゃったと思ったらシリウスもピーターもいなくなっちゃうし…、リーマスとも最近連絡取ってなかったし…」
「…ごめんな。不安だったよな」
今までずっと不安で、孤独だった。
久しぶりに仲間に会えた安心感から不意に涙が零れてくる。
「相変わらず泣き虫だな。」
「…ばか。」
「もう、1人にしないから。」
その言葉に、ジェームズの昔言ってくれたた言葉を思い出す。
『1人にはしないよ』
思い出が現実に…重なる。
「…ねえ。アズカバン脱獄したの?」
「ああ。」
「こんな出歩いてて捕まらない?」
「自信はないな。普段は犬の姿だ。バレない心配がないわけじゃないんだが…。でも俺はハリーを守らなきゃいけないだろ?」
「うん…。そうだね。」
「犬じゃあ花さえ持って来れないしな。参ったもんだよ。」
そう言ってシリウスは肩を竦めて笑った。
「シリウス。」
「ん?」
「捕まらないでね。」
「勿論。」
悪戯っぽく笑う彼に学生の頃を思い出す。
「私ね、すごく後悔してることがあるの。」
「うん。」
「ジェームズに好きって言わなかったこと。」
二度と逢えなくなるなんて思いもしなかった。
「…うん。」
何度も言おうと考えた。
でも彼のリリーへの想いを知っていたから…。
彼が幸せなら、それで。
「でもね、新聞でハリーのことを見るとね、
ああジェームズ達は確かに生きてたんだって思えてね、…守りたいって思うんだ。」
「そういう所がなまえの良い所だよな。」
そう言ってシリウスはなまえの髪をくしゃり、と撫でた。
「シリウスそうやって髪撫でるの、父親みたいだよ。」
なまえは照れ臭そうに頬を赤らめた。
「そっか。」
もう辺りは真っ暗で、風が冷たい。
「…いっそ、ジェームズになりたかったよ。」
「へ?」
「なまえ。」
「何?」
「俺、生きるから」
「わかってる」
「だから俺が堂々と帰って来れるようになるまで、死ぬなよ」
「うん」
「絶対だからな…」
シリウスがなまえを強く抱きしめた。
「待ってるから帰ってきてね。待ってるから。」
彼の腕の中は心地良かった。
「なまえ…。」
「ん?」
「なんでもない。」
「何よ。」
顔を見合わせて、笑う。
口に出してしまいそうになった『愛してる』はまだ早い。
帰ってきたとき、自分の気持ちを伝えたら彼女はどんな表情を見せるだろうか。
「…それまでは絶対に生きてやるよ。」
小さく呟くとシリウスは二人の墓に微笑んだ。
080910.
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