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ハルアベ同棲SS@



何気なく付けたラジオから、最近気になっているミュージシャンの新曲が流れ始めた。
あぁ、タイミング悪いな、と思いながら駐車場へするりと車を停める。
エンジンを切るか否かで数秒悩み、曲がサビに入った所でシートに深く身を預けた。
軽快なリズムが、まるで子守歌のように聞こえてしまう。
少し気を抜いただけで、疲労を溜め込んだ身体は休止モードに入ってしまう。
この場所が家なら良いのに、と思いながら目を閉じ、助手席に置いた鞄から手探りで携帯を取り出す。
スライドさせると、手に振動が伝わり、運転中にメールないし着信があった事を知らせてくれた。
弾かれたように携帯を確認する。
着信が一件。メールが一件。
何れも同一人物からで、

「お風呂入れておいた方がいいですか」

だと。

俺は曲の終わりを待たずして、車のエンジンを切った。



春。
遂に始まった新生活。
俺の給料はそこそこのマンションでそこそこの生活を「二人で」出来る程充分なものだった。
黒いスポーツカーにロックを掛け足早に進み、運良く一階で待機していたエレベーターに乗り込む。
階のボタンを押して、壁に背中を預けた。
もう一度目を閉じる。



俺は今、二人暮らしをしている。
同居という名目の、同棲。
結婚の準備段階でもないのに、俺は心の中で、今の生活を同棲と呼んでいる。
そしてその認識は、きっと俺だけのものだ。



エレベーターはスムーズに目的の階で止まり、俺を降ろすとすぐにまた降りていった。
エレベーターを降りて、一番奥の部屋のドアに、「榛名」の表札がある。
同居人の名前は、表に出てはいない。



鍵を開けて中に入ると、すでに玄関の電気がついていて、不思議な感じがした。
奥にあるキッチンの方から、ふんわりと煮物らしき匂いがする。

「ただいま」

靴を脱ぎながらどこにともなく声を掛けると、すぐ傍の洗面所のドアが開き、今度は洗剤の匂いがした。
余りに家庭的な状況に心をほぐされたが、直後に洗剤の量が間違っているのではないかと不安になった。
まぁ、それでもいいか、とも思った。


「おかえりなさい」


開いたドアから顔を出したその人物を、まず真っ先に抱き締める。
耳の後ろに鼻を近付けると、醤油と砂糖を混ぜた匂いがした。
もう、と俺の顔を引き離すその手は洗剤の香り。
なんだこれ、カンペキ、と思わず頬が緩んだ。


「ただいま、隆也」
「はい、おかえりなさい、元希さん」


はにかんで隆也が微笑む。
これぞ幸せのカタチだ、と俺は思った。





あきゅろす。
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