ハルアベお隣さんパロH
それから俺達は各々買い物を終え、両手にレジ袋を提げてスーパーを出た。
「隆也くん、喰われないようにね」
一旦は聞き流したが、改めて秋丸の意味深な発言が気になり、俺は勇気を出して訊いてみた。
「あの……喰われないようにって、どういう意味ですか」
「え?ああ」
自分の言葉を思い出して、秋丸はぱっと笑顔を見せる。
「ごめんごめん、変な事言って。いや別に、榛名にそういう前科がある訳じゃないから、安心して。ただ……」
「ただ?」
「なんとなく、君にならやりかねないと思ってさ」
あっけらかんと告げる秋丸に対し、俺はぎこちなく顔を引きつらせた。
榛名の事が好きだ、と自覚したばかりの俺にとって、その言葉は生々しく、でも全く現実味がなかった。
榛名は男相手に変な気を起こす感じでもなさそうだし、第一俺なんてそんな対象にならないだろう。
「ないですよ、ないない」
「まぁね。うん……そうだね」
お互い自分に言い聞かせるように言って、その話題を断ち切った。その時再び、スーパーの向かいに建つ榛名行き着けの牛丼屋が目に入る。
「テイクアウトOK」の幟を見て、ある考えを思いついた。
「秋丸さん、良かったら、そこの牛丼屋寄っても良いですか」
「え、うん、いいよ。昼飯買う?」
「はい。今日お世話になったので秋丸さんの分と、あと……元希さんの分も」
自分で言っておきながら、その行為の気恥ずかしさに、最後の方はかなり小さな声になってしまった。
なのにしっかり俺の言葉を聞き取って、秋丸は激しく首を振った。
「いやいや、いいよ!俺なんてついでだし……それに榛名も、そんな親切したらますます隆也くんに懐いちゃうよ!」
「でも、これくらいさせて下さい。おかげさまで道も分かりましたし。あと元希さんは、夕食も朝飯も奢ってくれたんで」
「……律儀なんだね、隆也くんは」
秋丸の表情は、感心というより俺を心配している表情だった。
元希さんはなんでそんなに信用されてないんだろ、と不思議に思いながら牛丼屋へと足を運ぶ。
ガラス越しの店内は、昼時少し前の時間帯とはいえ、サラリーマン風の男性を中心として客でごった返していた。
「あの、俺すぐ買ってきますから、良かったらここで待っててもらえますか」
「うん、分かった。邪魔になるだろうから、荷物持っとくよ」
牛丼屋の軒下で待っていてもらうよう秋丸に促すと、自然な動きで持っていたレジ袋を引き取られる。
細やかな親切に秋丸の人柄を感じながら、俺は頭を下げて牛丼屋へ入った。
人は多くともお持ち帰り用の牛丼三つはすぐに用意され、俺は10分も待たずして店を出た。
「秋丸さんすみません、ありがとうございました」
軒下で待っていた秋丸からスーパーでの荷物を受け取り、変わりに牛丼の入った袋を差し出した。
「今日はお世話になりました。それに、楽しかったです」
「ううん。俺も、お隣さんが来て嬉しいんだよ」
今度は牛丼を受け取る変わりに、秋丸ははい、とお茶のペットボトルを差し出した。
「こんな近所の案内に、牛丼は悪いなと思って。さっき自販機で買ってきた」
言葉と行為にぴったり似合う、とても好意的な笑顔を向けられる。
お茶の一本で、人はこんなにも心が温かくなるものなのかと思った。
俺は早くも、回りの人々に恵まれているらしい。
「それじゃ、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、昼飯ありがとね」
アパートに着き、秋丸の部屋の前で俺達は頭を下げ合った。
また何かあったら言うんだよー、と言って部屋の中に入る秋丸の姿を見届け、後で昨日渡せなかった菓子折りを持って行こうと思った。
そして俺は、自分の部屋に入り、とりあえず買った荷物を玄関前に置いた。
そのまま再び外に出て、今度は一番奥の部屋の前に立つ。
手に牛丼の入った袋を握り、俺はチャイムを押した。
なぜかスーパーでの秋丸の言葉が頭を過ぎったが、俺は気づかないフリをした。
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