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ハルアベお隣さんパロE


朝一番の訪問者は、まるで自室に帰るかのようにすんなり玄関に上がってきた。
腰履きにしたスウェットにTシャツにパーカーを羽織った至って寛ぎスタイルの榛名は、サンダルを脱ぎ、固まる俺の方を振り返った。

「パン二個あるから、一緒食お」

朝から見るその笑顔は透き通り、やや色っぽい表情に映った。
俺はようやく完全に夢心地から覚め、慌てて洗面所に走った。



「えっと、コーヒー淹れましょうか」

知り合いもいないこの土地で、大学生活が始まるまではほとんど人と接する機会がないだろうと踏んでいた俺は、今この状況に戸惑っていた。
再び簡易机を組み立てて、ひとまずそんな質問をしてみる。
榛名はもう完全に目が覚めているようだが、昨日ほどのテンションの高さもなかった。
ただ自然な状態で、そこに座っている。
元々、そこにいるのが当たり前であるかのように。

「いーよ、牛乳持ってきたから。タカヤ、メロンパンと焼きそばパンどっちがいい?」

ビニール袋から前言の物を取り出して、榛名は俺に訊ねた。
昨日から世話になりっぱなしだからと俺が遠慮すると、「じゃあメロンパン」と手を取られて握らされる。
榛名は嬉しそうな表情を浮かべて、牛乳のパックにストローを刺した。
俺も少し悩んで、素直に「いただきます」とメロンパンの封を切った。



「でも、本当悪いです。俺もう充分嬉しいんで、あんまり気遣わないで下さいね」

大きなメロンパンを頬張りながらそう言うと、榛名はぴたりと動きを止めて俺を見つめてきた。
力のある瞳に、ぐっと捕らわれる。
たちまち昨日のあの感覚が蘇ってきて、俺は顔を赤くした。

「昨日も言ったじゃねーか」

尚も俺の眼を直視しながら、榛名は言う。
拗ねた様子を声に含ませて、その完成された姿に似合わぬ、人に焦がれる飼い犬のような瞳になって。

「俺、寂しーし」

どうもしっくり来ない台詞だが、俺は心臓が軋むのを感じながら榛名を見つめ返した。
榛名が牛乳のストローに吸い付き、ぎゅっと吸い上げる。
じゅじゅ、とそれが飲み干された音がして、榛名は口からストローを離した。
そして、そのストローの先を、赤い舌でちろりと舐めた。
舌舐めずりをするかのようなその動作を目の当たりにして、俺は目の前がクラクラした。
一瞬、身体を指でなぞられるような錯覚を覚えた。


「それに俺、多分タカヤの事、好きだし」

目眩がした。
先程見た眼の様子は一変し、狩るような視線で見つめられる。
言葉と表情の裏側の本質は見抜けず、俺はひたすら、虜になる。

きっとその「好き」は違うのに。

まともに呼吸をするのも儘成らず、結局俺が我に帰ったのは、榛名が朝食を取り終わり、「そんじゃな」とあっさり玄関を出ていった時だった。






あきゅろす。
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