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ハルアベお隣さんパロD


「元希、でいいよ」


未だ網膜にこびりついたままの榛名の姿を掻き消そうと、俺は大きく首を振った。
結局俺が伸びきったカップラーメンを食べ終わる前に、榛名はさっさと自室へと帰ってしまった。

「んじゃ、なんかあったら気軽に呼べよー。俺春休み暇だし」

との言葉を残して。



また一人になった自室の天井を仰ぐと、先程見た榛名の表情がくるくると浮かび上がっていった。
俺のより遥かに厚く、温かく、男らしい掌で撫でられた瞬間。
俺は確かに、榛名に恋愛感情なるものを感じた。
染み入るように広がる胸の熱さは、きっとその余韻だ。

「嘘だろ……」

相手は男だ。十も承知だ。
だけど、気づいた感情に顔を背け続ける事は出来ない。
俺はベッドに倒れ込んで、布団に顔を埋めた。そうでもしなければ、堪らない気持ちになってくる。

「元希……さん」

今度会った時の為の練習に、と実際にその名を声に出してみたが、どうやら逆効果だったらしい。
気持ちに押し潰されそうになった俺は、布団を被って必死に目を閉じた。



かくして、俺の一人暮らし生活初日は幕を閉じたのだった。






ピンポーン。

ピンポンピンポーン。



――チャイムが鳴る。
まるで目覚まし時計代わりのような、催促を思わせるチャイムが。


ピンポーンピンポーンピンポーン。


俺は薄く目を開けて、夢現をさ迷った。

チャイム、チャイム……?
なんで……?


目を擦って、体勢を起こす。
不意に出た欠伸を噛み殺して、ベッドから離れカーテンを開ける。
春の日差しが室内を仄かに包み込んだ。

その間もチャイムは続く。
覚醒しきらない脳は、とりあえず身体だけを反射的に動かした。
玄関のドアノブに手を掛け、その先の人物を出迎える。
訪問者の正体は、正常な脳で考えてみれば心当たりが一人しかいない。
頭半分寝ている俺にはすぐに思いつけない、昨日出会ったばかりの人物。


「はよ、タカヤ!」

「………元希さん?」


昨日の精一杯な練習も虚しく、その単語は至って自然に、滑るように俺の口から零れた。
言葉にすればたちまち意識がついて来る。
朝一のチャイム連打攻撃、部屋着姿の訪問者、顔も洗っていない俺、嬉しそうに弾む、昨日聞いたばかりのその声。


「朝飯食うぞ!」


叩きつけられる、笑顔。


おかしいな、俺は昨日からここで一人暮らし生活を始めたはずなのに。






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