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ハルアベお隣さんパロB


積み重なった段ボールを一箱ずつ開封して整理していたら、いつの間にか日暮れの時間になっていた。

最後にその窓にカーテンを取り付けて、外の景色を覆い隠す。
部屋らしくなった自室を振り返って、俺はある人物を思い返した。

――榛名元希、さん。

たった一人でこのアパートに越してきた自分に、初めて温かい笑顔をくれた人。
その顔を思い浮かべると何故か頬は熱く火照った。

――なんか、俺、変だな……

沸き起こる感情の正体を掴めないまま、俺はベッドに横たわった。
もうすぐ、夕飯の時間だ。
節約の為になるべく自炊しようと決意していたが、流石に冷蔵庫の電源を繋いだばかりの今日は何の食材も有していない。
疲れたけど、お腹は減った。何か弁当でも買いに行かねば。



ベッドの上でうとうとしながら悠長に考えていると、それは唐突に部屋中に鳴り響いた。

ピンポーン。

「……?」

今日何度も押して回った、玄関の呼び出し音。
それに対するのは誰だ?という疑問ではなく、どうして?という不安だった。
予想外のチャイムが、緩んだ俺の思考回路を覚醒させた。

今日ここに越してきた俺には、当然ながら訪ねてくるような友人知人がまだ存在しない。
宅急便や料金徴収でもないだろうし……一体誰だ?

横たわったばかりのベッドから起き上がり、俺は玄関へと向かう。
一応覗き穴を覗いて見たが、そこは曇っていて何の役目も果たしていなかった。
恐る恐る玄関を開けた先に立っていたのは――…


「よっ」

「榛名さん!?」


そこには先程顔を合わせた隣人が立っていた。

しゅるしゅると緊張の糸が解くのを感じながら、俺は玄関のドアを開け放した。
すっかり髪の毛も乾き、きちんと服を着た榛名は、再び人懐っこい笑みを浮かべながら……
何の断りもなく、部屋に上がりこんできた。

「……?」

その行為に再度不信感が込み上げて来たが、それが今の数少ない知人の行為だと思うと、なんとなく違和感は気にならなかった。
先に靴を脱ぐ榛名は、俺の方を振り返り手に持ったカップラーメンを掲げた。

「食いもん、ねーかなと思って。引っ越し祝いにお裾分け!」

ニカッと榛名は笑う。
……ああ、そういう事か。
ぼんやり納得してから、俺は靴を脱ぎ部屋に上がった。

「いいんですか?いやでも、何か買って来ようと思ってたんで、ありがたいです」

「ん、一緒に食べよーぜ」

……え?とその言葉に対し首を傾げて見せる。
榛名はカップラーメンの封を切りながら照れくさそうに俺の顔を見た。

「俺、ちょっと寂しがり屋なんだよ」

言葉通りの表情。
出掛ける主人を切なげに見上げる子犬のような表情。
どきり、と心臓を貫かれて、俺は咄嗟に目を逸らした。

「お、お湯……沸かしますね」

「ん、ありがとー」

慌てて立ち上がって、榛名の顔を見ないようにキッチンに逃げ込む。
水を入れたヤカンを火にかけて、沸くまでの間暫く待った。



なんだ、なんだ、なんだ――!?

正体不明の感情は、沸騰直前のようにふつふつと揺れ動いた。
ヤカンから噴き出した湯気が、俺の視界を白く霞ませた。






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