「でさー、どこ行きたい?」
歯磨きと身嗜みのチェックを終えた俺は、自覚出来るくらい目を輝かせながら隆也に声をかけた。
堂々と俺の目の前で生着替えを披露していた隆也は、パーカーから首を出して振り返った。
「どこって……」
普段なら「どこでも良い」とお決まりのドライなセリフを吐き捨てる隆也であったが、今日は違うらしい。
「どっかある?てか、どっか嫌なとこがあるって事か?」
「いや……てかよく考えてみればその、外出っつーか……」
やけに歯切れの悪い隆也の言葉が結論に達するのを待つ。
だがその時間は数秒の沈黙で片付いた。
「俺は……すいません、やっぱ家が良いかも」
「へ?」
それまでの流れで、てっきりこの晴天の下ドライブにでも出掛ける気でいた俺は、拍子抜けした声を出した。
当の隆也は何故か恥ずかしそうに口元を手で拭い、顔を逸らした。
「まぁ、隆也が家がいーなら良いけど……ほら、天気良いとか言ってたし」
「いや、違くて……だってほら、外だとなんつーか……」
「なんつーか?」
「あんま……好き勝手出来ないじゃないですか」
最早囁き声程度のか細い声を振り絞り、隆也はもう無理、もうこれが限界、てな感じで顔を伏せた。
俺は一回頭に疑問符を浮かべて――…察した。
「た、たかやっ……」
「……なんですか」
「それはその、外では人目が気になって思いっきりラブラブ出来ないから家で気のゆくまで俺とラブラブしたいって事か!?」
「なっ、そっ……ちがっ!」
隆也とは正反対に、どんどん言葉に興奮の色を織り交ぜながらまくし立てる俺と、照れる隆也。
我慢ならずに、俺は隆也に飛びついた。
「やべー、隆也かーわいー」
「やめて下さいよ!本当、熱いから……っ」
すぐにこんな事をするから、隆也も今更外出を拒んだのだ。
俺達の生活の名目は、同居であり同棲ではない。
俺達の関係は、同居人でありカップルではない。
お互いにそれを合意の形で呑み、ただ家で二人きりの時に限り自分のしたいがままに行動する。
隆也は、外に出掛けて俺と「同居人」もしくは「友人」として過ごすのではなく、人目を気にせずこの家で二人で過ごす事を選んでくれたのだ。
俺はそれを、そんな隆也を、とても愛おしく思う。
普段は微塵も見せてくれない姿なだけに。
「じゃあ家の中で何すんの!?つーか着替える必要なかったな!」
「は!?や、別に何をするってわけでも……」
「とりあえず昨日の続きからな」
そう言って隆也を抱いたままソファーに倒れ込む。
下に敷いた隆也の頬にかぶりつくと、自分の頬をつねられた。
「やっぱり買い物に行きましょうか」
「やだ。もう予定変更は無理、これが一番」
反論されない内に、隆也の言葉を封じる。
休日くらいは、ちょっと大胆な事でもさせて欲しい。
不機嫌そうな隆也のその表情が、照れ隠しの為のものだって、俺はよく知っているのだから。