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ハルアベ同棲SSF



ザアアアア。
断続的な流水音を聞きながら、俺は目の前の鏡に映る自分を見た。
顔全体と前髪を濡らした俺は、目の前の俺を咎めるように見据える。
自分から誘っておきながら朝まで寝かぶるという大失態を起こした昨夜の俺に、今現在の俺は莫大なプレッシャーを浴びせかけられる羽目になった。
隆也は朝からほんとした様子だったが、実際の隆也の心境を計り知る事は出来ない。
昨夜、(もしかしたらその気になってくれていたかもしれない)隆也が爆睡する俺を見つけた瞬間、どんな想いでいたのか。
このバカ!ヘタレ!と罵りながらも僅かな理性で掛け布団をかけてくれたのか……もしくはそんな単純なものではなく、急激に俺に失望して半分諦めた様子で掛け布団をかけてくれたのか……
その真実は、当時夢の中な俺が知る由もない。
ただ皮肉な事に、今朝は素晴らしく幸運な夢を見たのだった。
内容は忘れてしまったが、とても幸せな空間からの目覚めだったのを覚えている。


……俺は隆也に弱い。俺はそれを知っている。
隆也の事になると、ついない頭をフル回転させて無駄な思考を巡らせてしまう。そして疲れる。昨夜の俺のように。
まぁしかし隆也の為となれば強い――…というのはまた余談として置いておこう。


そろそろ水道代について隆也にガミガミ言われる頃合かと思い、俺は流しっぱなしにしていた水を止めた。
どちらにせよ、隆也が作ってくれた時間を無駄にするわけにはいかない。
俺は顔をしっかりタオルで拭き終えてから、リビングへと戻った。

隆也はまたどこかの部屋に姿を消していて、俺は食卓につき、用意してあった目玉焼きを生のままの食パンに載せた。もう食えればなんだっていい。
普段朝食はしっかりゆっくり摂るよう隆也からうるさく言われているのだが、今日くらい良いだろう。
折り曲げてサンドイッチの形にした食パンを頬張りながら、俺は冷蔵庫に手を掛けバナナジュースを取り出す。
それをぐいぐい飲み干して、食パンも口に押し込み、5分足らずで朝食を終えた。
そして丁度そこに、再び隆也が現れた。今度は掃除機を手に。

「あれ、もう食べちゃったんですか?」

「あ、ふぉお」

まだ飲み込みきれていない朝食に言語を乱されながら、俺は首を大きく縦に振った。
無理な朝食の食べ方をしたのに気づかれる前に、俺は自室へと逃げ込む。
リビングより掃除機の音がしてきたのを確認してから、適当に服を選んで着替えを済ませる。
その頃になってようやく、口の中の食パンは喉を通って胃へと下って行ったのだった。

今日は、一日中隆也と一緒だ。

改めて思うと、この上ない幸福感に包まれた。
時刻は未だ9時前、時間はいっぱいある。ずっと隆也といられる。それはとても、幸せだ。

その幸せな時間を、どんな形で過ごそうか。

歯磨きを済ませる為に、再び洗面所へと向かう。
いつもならなかなか終わらない掃除機の音は、今日は何故か拍子抜けするくらい、すぐに止まってしまった。






あきゅろす。
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