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ハルアベ同棲SSD



隆也が向かった浴室から、なかなかシャワーの音は鳴り止まない。
付けっぱなしのテレビなんて全く耳にも頭にも入って来ないし、俺の集中の矛先は先程からシャワーの音でしかないのだ。

ソファーで無意味な横転を繰り返しながら、隆也の帰りを待つ。
今さっき触れたばかりの隆也の体温が愛おしくて、足りなくて、俺は湧き出しそうになる感情を必死に抑え込む。
たかやー、たかやー、って何度も心の中で隆也の名を呼ぶ。もうそれだけで息が詰まってしまいそうだ。


同棲生活が始まってからというもの、どうも俺の思い通りには俺達の温度差は縮まってくれなかった。
隆也は元々べたべたするのが好きじゃないし(本当は俺だってそうなはずだ。俺がべたべた引っ付いていたいと思うのは生まれてこの方隆也一人だけだ)いやそれにしたって中々心を許してもらえない。俺の予定では、もうとっくに先週の夜辺りには……


なんて。そんな話は置いておこう。
過ぎた事はどうしようもない。問題はこれからだ。
まず隆也が風呂から上がって来たら、先程許可が下りた通り、気が済むまでじゃれてやる。
最近仕事のせいで二人の時間が取れずにいたが、なんと明日は休みだ。なんと好都合。そうだ、改めて思えば今日が勝負だ。この早くも倦怠期化しかけている同棲生活の流れを変える絶好機じゃないか。
俺はそこまで考えて、がぜん興奮し、同時に緊張してきた。
あー、やばい!干からびそうだ!数分後には俺と同じ匂いをした隆也が俺と密着している事を思うと、それだけで意識がぶっ飛びそうになる。あーどうしよう、なんか……なんか、疲れるな。考えるって。
うん、疲れた。


それを自覚した直後、俺は一気に仕事で蓄積された疲れを思い出した。
同時に隆也がシャワーのコックを捻る音がして、それから風呂の湯が溢れる音がした。
あー、そっか、シャワーの次は風呂があった……
俺はソファーで再び横転して、ちょっとがっかりして、その反面少し緊張をほぐす事が出来た。
隆也が風呂から上がるのはまだ先らしい。
疲労感が身体を蝕み、足の先から感覚を解いていく。
俺は自然な動きで目を閉じて、ため息じみた息を吐き出した。






「……寝てる」

ソファーで窮屈そうに眠る彼の顔を覗き込みながら、風呂上がりの彼は呟いた。
心地よさげに寝息を立てる彼の顔は、昼間のそれより幾分幼く見える。

――あんなに張り切ってたのに。

そう思いながら、頬の上気した彼は掛け布団を横たわる彼に被せた。ベッドまで運ぶのは至難の業だし、彼に目を覚まされると色々厄介だ。
丁度明日は休みだし、今日くらいはこのまま寝かせてやろう。

「おやすみなさい、元希さん」

そう言って、頬にキスを一つ。
起き上がった彼なら舞い上がらんばかりに喜ぶであろうその行為は、柔らかく微笑んだ彼だけが知っている秘密だ。






あきゅろす。
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