風呂上がり、俺は生乾きの頭にタオルを被せたままの状態でリビングに向かった。
隆也は洗い物を終えたようで、ソファーから後頭部だけ覗かせてテレビを観ていた。
普段は野球中継かニュースしか観ない隆也だが、今日は珍しくバラエティー番組を観ているようだ。
画面の右端に「必見!今日から役立つ時短テク」と銘打ってあり、俺は危うく鼻で笑ってしまいそうになる。
「あ、元希さん。もう上がったんですね……って、髪ちゃんと乾かしてきて下さいよ」
ソファーに手を掛けてテレビを観ていた俺に気がついて、隆也が早速顔をしかめた。
「あーはいはい、てかお前のその敬語ほんっと治らないな」
「まあ、慣れで」
俺が話題を逸らすと隆也も素っ気なく視線をテレビに戻す。
面白くない、と思って俺も隆也の隣りに腰を下ろし、強引に抱き寄せてやった。
胸の中でぎゅっと力強く隆也の頭を抱き込むと、空いた手で容赦なくぶっ叩かれた。
ここで抱き返してくれたらどんなに可愛いだろうかと思いながら、腹癒せに覆い被さるように隆也を抱き締める。
息苦しいのだろう、隆也は俺の身体を叩いて「ギブギブ」と訴えてきた。
可哀相なので解放してやるとする。
隆也は真っ赤な顔をして俺を睨み付けた。
「死んじゃいます!アンタ加減ってもんを知らねーから!」
「んあー……ごめんごめん、だってほら、つまんなくて」
「やめろ、本当に」
隆也が敬語を忘れるもしくはわざと使わない時は怒っている時だ。
ただその涙の張った目を見ると、悪かったなと思ってしまう。
でも俺は隆也を抱き締めるのが好きだ。
この上なく好きだ。
だからまあ、その日一日頑張ったご褒美がてら、隆也にはちょっとだけ我慢して欲しいなー、なんて。
「どうも身の危険を感じるので、俺も風呂に行って来ます」
「ええー」
「それまでに少しは落ち着いてて下さいね!」
そう吐き捨てるや否や、隆也はズカズカと浴室の方に歩いて行った。
一人になってしまったソファーの上で、俺は思いきり伸びをする。
「……やっぱ可愛いな、隆也」
それまでに、って、じゃあ隆也が風呂から上がって来たらまた続きやって良いって事かよ。
予想以上に火照り始めた頬の温度を確かめながら、俺は改めて、自分の愛情の深さを知るのだった。