その日は部活も休みで、一日暇だったから何をして時間を潰すか考えていた。
休みと言っても日課であるランニングの為、朝は早い。
夜明けの遅いこの季節、朝日はまだ傾いたままぼんやりと街並みを照らしていた。
その光を眺めながら、なんとなくある人物の顔を思い浮かべる。
そうだ、久しぶりに会ってみようか、と、俺もまたぼんやり考えた。
【そんな休日の過ごし方】
「はい、生憎暇です」
自分の体温で温もったウィンドブレーカーを名残惜しみながら脱いでいると、電話越しの相手は忌々しげにそう答えた。
「じゃあ来いよ、用意出来たらすぐな」
そう言って電話を切る。
話が片付くのは早い。
それから着替えて、朝食を取り終わって部屋で寛いでいる所で、玄関のチャイムは鳴った。
扉を開けた先に立つ人物は、赤い鼻と耳をして
「おはようございます」
と小さく言った。
手にはコンビニのビニール袋が一つ、提げられていた。
「それで、何か用でもあるんですか。元希さん」
「別に。暇だから呼んだだけ。隆也もどうせ暇だったんだろ」
久しぶりの再会を喜ぶでもなく、特に何の感情も面に出さずに尋ねる隆也に、俺はニヤリと笑いかけてみせた。
とりあえず部屋に上げると、隆也が「どーぞ」とこれまたぶっきらぼうに持っていた袋を俺に突きつけた。
肉まんが二つ入っていた。
「寒いですから」
隆也のそういう気遣いは好きだ。
ぱたりとドアを閉めてやって、とりあえず暖房でも付けてみる。
隆也は迷いも断りもなく、俺のベッドの上に腰掛けた。
いつもこんな感じだから、俺は何も言わずに床に胡座をかいて座った。
しん……と部屋が静まり返ってしまい、俺は適当に撮り溜めしておいたDVDでも見る事にした。
俺がその準備をしている間、隆也は後ろで今し方俺に手渡したビニール袋を引き寄せてガサガサやっていた。
自分で買ってきて、勝手に食べるのだろう。
てかそれ、お前が食いたかっただけだろう。
部屋の中が暖房で暖まってきた頃、俺は欠伸をして大して面白くもない番組をぼーっと観ていた。
隆也があまりにも静かなので、まるで一人ぼっちのようだ。
これ、隆也呼んだ意味あんのかよ。
まぁ、いっか。いつもこんなもんだろ。
一時間くらい経ったと思う。
部屋の中がぽかぽか暖かいもので、俺は目をしぱしぱさせて、テレビの内容なんてほとんど頭に入って来なかった。
あっそーいえばと思って隆也が買ってきてくれた肉まんを探した。
後ろを振り返ってみると、俺と同じようにうつらうつらしている隆也が依然として同じ体制でベッドに座っていた。
その傍らにあるビニール袋から、すっかり冷えてしまった肉まんを取り出す。
チンしに行くのも面倒臭くて、そのまま頬張るとやっぱり冷たかった。
でもなんかうまい。隆也を呼んで正解だったな。
ちんたらテレビを見ながらちんたら肉まんを食べる。
なんか今日ホント、隆也が来てんのになんでこんなにしゃべんないんだろとか思いながら。
でもなんかあったかいし、落ち着く。
俺もなんも考えてないし、隆也もなんも考えてないんだろうなとか考えながらこのまま寝てしまいたくなった。
それこそ隆也を呼んだ意味はないが。
すると、後ろのベッドが小さく軋んで、俺の背後に人の気配がした。
そう思った途端、背中に重みを感じた。
びっくりして、え?とか独り言を言うと、小さな吐息が聞こえた。
隆也だ。
そう意識して、俺は思わず固まった。
隆也がベッドから降りて、俺のすぐ後ろに座ったんだろう。
そして、俺の背中に額を寄せて寝に入っている。
俺は体温が一度上昇しそうだ。
なんだよ!と振り返って笑い飛ばしてやろうと思ったが、隆也の吐く息が背中に当たって、俺はどうにもこうにも身体に力が入らなかった。
ていうか、隆也、お前俺でさえ我慢したというのに、普通に寝たな。
俺せっかく今日暇で、お前も暇で、久しぶりに会えたっていうのに、まだ全然話とかしてねーじゃねーか。
お前ただ肉まん持ってきただけじゃねーか。
お前はあれか、肉まん配達員か。
と、俺は頭の中で必死に隆也に文句を言った。
もちろん全て隆也に届くはずもなく、俺は固まったまま隆也に背中を貸す壁になり続けた。
あぁ、もう、知るか。
とろとろ沈んでいく瞼を閉じて、長く息を吐いた。
背中が、やけに熱い。
起きたら背中に涎でもついてたらどうしよ、とかどうでもいい事を考えながら、俺は眠りについた。
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