あんたはかなりの変わり者で自分勝手
でもそんなあんたに付き合う俺も
これまたかなりの変わり者だと思う
【仲直りの手段】
今日もまたグラウンドに怒声が響いた。
毎度の派手な喧嘩に罵りの応酬。
そして、俺達を宥めた後、そそくさとばらけて行った部員達。
更衣室には、練習と喧嘩に疲れた俺とそのパートナーだけが残されていた。
『なんでこういつも、いらん事で疲れなきゃなんねぇんだよ…』
心の中で溜め息と悪態をつきながら、俺は脱いだユニフォームを乱暴にバックに押し込んだ。
そして制服のボタンを留めながら、チラリとベンチに腰掛けたまま動かない奴の方を見る。
誰が見ても明らかという位にあからさまな落ち込み様。
シャツも前が全開のまま、ぐったりと頭を垂れている。
そんな奴を見て哀れだなんて思う自分は、つくづく甘いなと思う。
でも今日こそは許さねぇ
あいつが謝ってくるなんて想像もつかない程ありえない事だけど、一言の謝罪くらいなければ今回の件は絶対許してやらね…
「!?」
シャツだけの上半身が、急に熱を帯びた。
何が起きたかもよく分からずに、腹あたりで組まれた手を確認するのでいっぱいいっぱいだった。
「な…っ、な……!」
体から直に伝わってくる熱とか、
自分とは違う人間の匂いとか、
自分より遥かにがっしりとした体の感触とか、
そういう情報が頭の中で絡まってぐちゃぐちゃになった。
「何して…っ!」
ようやく物事を把握したのは、
後ろから抱き締める奴の力がほんの僅かに強まった時だった。
「…………」
卑怯な事に奴はずっと黙っている。
俺の肩に顔を埋めて、かつてない程真っ赤な俺を強く抱き締めるだけだ。
「もう…っなんスか!」
何か無性に恥ずかしくて、俺はもうどうでも良いからこの場から逃げ出したい気分になった。と言うかわけが分からない。
こんな奴の姿を見るのは初めてだった。
俺がそうこうしてあたふた挙動不信にしていると、俺の耳元で、奴はボソリと呟いた。
「降参すっか?」
「………ッハァ!?」
「降参してさっきの無かった事にしたら離してやる」
「…!?何なんスかもう!あーそんなんどうでも良いっすから!こ…降参しま…ッ」
そう言い終わらない内に、両手はパッと外された。
呆気に取られている俺に、奴はいつもの(クソ憎たらしい)笑顔を向けた。
「うっし!じゃあ帰るか!!」
呆然と立ち尽くす俺を無視して、奴は鼻歌なんか歌いながら帰り支度を始めてしまった。
『今の……今の何だったんだ…』
「ほらっ早くしろ隆也!」
奴は自分の荷物を肩に掛けて、満面の笑顔で振り向いた。
奴が更衣室の電気を消すと何も見えなくなる程に、外は真っ暗だった。
奴は足早に歩を進める。
心の中にどうもまだ煮え切らない物を残したまま、俺は慌ててそいつの背中を追った。
満天の星空の下の帰路、
今回もまたこんな事で
「まぁ良いか…」
なんて奴を許してしまっている。
そんな自分に腹が立って、
俺は思いっきり奴のケツに蹴りを入れてやった。