俺の見つめる先に、
アイツはもういない。
【目線の先】
あの部を引退して、もう随分と時が過ぎた。
俺には新しいパートナーが出来て、新しい仲間が出来て、新しい練習場があって。
それはアイツも同じだった。
「パンッ」
アイツの前に立つのが好きだった。
アイツが俺だけを見ているその瞬間。
俺から必ず目を逸らさないその時。
それがとても気持ち良かった。
「パンッ」
『そう考えてたのは、俺だけだったか…?』
試合の時も練習の時も、アイツが俺だけを見て、俺だけの事を考えてくれてたのが、最高に嬉しかった。
キャッチャーってそんなもんだろうし、パートナーが変わった今も、きっとそうだと思う。
「パンッ」
『アイツは今、アイツの目の前にいる奴の事しか考えてねーのか…』
今、アイツと俺が同じ時間を共有していない事が悔しい。
奴の頭の中に何が詰まっているのか分からないのが、すごく悔しい。
『俺は今のキャッチャーの顔がお前の顔に見えた事、何度だってあるぞ』
『お前は…そんな事、ない…か?』
俺に笑いかけながらボールを返す目の前の相手。
あの時は、しかめっ面でボールを投げるあの顔があんなに気に食わなかったのに、
『なんでお前、ここにいねーんだよ…』
俺の見つめるその先に、
アイツはもういない。