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牛乳(HA)



その時の俺の日課と言えば、部活帰りに自販機で
牛乳を1パック買っていく事だった。


【牛乳】


薄暗い部屋の端で光る、一台の自動販売機。
100円玉を突っ込んで、いつもどおり一番上の左端のボタンを押す。
出て来た飲み物を取り出してストローを刺すと、タイミングよく奴は現れた。

「また牛乳かよー」

そいつは部屋の電気を点けながら、呆れた様な、半分馬鹿にしたような声を上げた。

「たまにはもっと気の利いたもの買えよな!」

そして当然と言わんばかりにまだ口を付けていないそのパックを取り上げた。

「あの、言っときますけどそれ、元希さんの為に買ったんじゃないんスよ」


俺はそれを取り返そうと思って手を伸ばしたが、奴は既にその白いストローに吸い付いていた。

「ちょ…!一口だけっすからね!」

1秒…2秒…3秒……
そいつが口に含んだ牛乳の量は、明らかに一口と言えるものでは無かった。

「ん、どーも」

ぽんと返されたその紙パックは、数秒前の半分の重さもない。
俺はそのパックを見、そして目の前の榛名をまた見た。


「元希さんって…遠慮も何もないっスよね……」

「あぁ!?何か文句あっか!」



……大アリですけど。



こうも強く当たられると、自分の器量がないのかと不安になってしまうのがまた嫌だ。
まぁこれを毎日やられているのだから、少しくらいこの行為にムッときたって、そう問題はないだろう。

「隆也ってなんでそんなに牛乳好きなんだよ」

俺が残りの牛乳を飲もうとするのを妨げるかの様にそいつは訊いた。
別に興味なんてありませんけどねー、みたいな口調がまた癇に触る。


「甘い飲み物…嫌いなだけっす」

「…ふーん」

奴はニヤニヤと口端をつり上げながら俺を見て来る。
嘘がバレたか、と心の中で舌打ちする。

そんな心の内が奴に知られない様に、俺はストローに口を付けた。
人のだろうがお構いなしにストローに歯形を付けるのは、コイツの癖の一つだ。

「たまには奢って下さいよね…アンタ一応先輩なんだし」

「一応ってなんだよ!ンな事ゆう生意気後輩には何も奢ってなんかやんねーよ!」



そうして、こつんと頭を小突かれた。
俺は反撃出来ずに、ただ奴を睨む。



まだまだガキだったその時の俺は、牛乳を飲む事くらいしか身長を伸ばす術を知らなかったし、
またそれを馬鹿の一つ覚えの様に続けていた。


それでも一向に奴との身長差は縮まらず、むしろ広がっていく一方だった。


『アンタが半分飲んじまったら、意味ねーじゃねーか…』




それは今となっても変わらぬ事で、俺はもうやめてしまった一日牛乳一パックを、また性懲りもなく始めてみようかなどと考えている。






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