「あれ、隆也じゃん!」
空気が生温いと感じ始める初夏、
再会は突然だった。
【お久しぶり】
澄み切った青空にまだ柔らかい日差し、
平凡な街角の色調から孤立した、一際目を引く赤色の自動販売機、
その隣りに、俺達は居た。
「まさかこんな所でテメーに逢うなんてよっ」
500mlのスポーツ飲料の蓋を開けながら、そいつは言った。
「そっ、すね」
情けなくもそいつと目も合わせきらない俺は、適当にそう相槌を打った。
ヤベ、
何緊張してんだ俺。
直に伝わる手の温度によって早くも温くなり始めている自分のスポーツ飲料を、俺は気を落ち着かせる為にガブ飲みをする。
(全く同じ物を買っている辺り、やはりお互い同じ高校生スポーツマンというかなんというか)
「あれからお前とまともに話す事なかったけどよー、えと…西浦?どうなんだよ」
「どうって…楽しいっすけど」
「どこら辺がー!あんなチビで貧弱で弱っちい球放りそうな投手と組んでも面白くねーだろ!」
「面白いから楽しいって言ってんですけど…」
「俺にはそうは思えねーけど!あんな奴の何処が良いのか…」
「アイツは良い投手っすよ」
言った後にあっ、と気が付いてそいつの顔色を伺った。
何軽くショック受けて気まずそうにしてんだよ、と言ってやりたくなるような顔をしたそいつに、俺は少々罪悪感を感じた。
シニア時代、俺はアンタの事こんな風に肩かつぎしなかったもんな。
「俺もお前より格段上手の捕手と組めて、毎日楽で楽しいっつの!」
「…そりゃ良かったじゃないすか」
可愛くねーなこの!と頬を抓るそいつの手は、スポーツ飲料に冷やされても尚暖かく、懐かしさを覚える。
それから俺達は、意地と見栄の張り合いを交えつつ、今の状況を説明し合った。
「まー別にお前が退屈してねーなら良いけどよ!」
「退屈はしねーすよ。今までにない環境だから、新鮮っつーか」
「そっか…思ってたより全然大丈夫か」
「?俺の事心配でもしてたんすか?」
「んなもんッ…するわけねーだろ!、いやでも俺は…てっきり、…武蔵野に…」
急に表情が曇り、末尾を濁らせたそいつは、その先を言わなかった。
薄々話したい事は伝わって来たし、俺もその言動を深く追及したりはしなかった。
きっと今更考えても仕方のない事だ。
お互い、頭の隅にあるその考えは。
俺はすっかり手の温度に犯された残りのスポーツ飲料を、一口で一気に飲み干した。
「俺も良かったっすよ、元希さん相変わらずで」
「あぁ?どういう意味だそれ…」
俺はそいつの方を向き直して、クスリと笑った。
本当に、その間抜け面は相変わらずだ。
でも、
「でも…やっぱ変わったかな」
「ハァー!?ワケわかんねぇ!」
俺は随分と間近で見ていないそいつの顔を、目に焼き付ける様に見つめた。
そう、今日改めて話して気付いた。
アンタは前よりもたくさん、色んな表情する様になった。
笑って話す様になった。
優しい目をする様になった。
それはきっと俺がそうさせたんじゃない、
今のアンタのチームのお陰なんだ。
「うわ何じーっと人の顔見てんだよ!気持ちワリィな!」
「…別に何もないっす」
寂しいわけじゃない。
寂しくなんかない。
俺は今のチームで、充分に満足しているから。
アンタとのバッテリーに、もう未練はないから。
「………隆也?」
だけど俺はアンタのそんな顔、あの時もっとたくさん見ていたかったよ。