奴は自分が怪我する事に対してはかなり神経質になるくせに、
人の痛みに対しては大層無頓着であった。
【サディスト】
「いっ…つ…」
「あ!悪ィ」
今日も左腕を豪速球が直撃した。
いつ折れるかもしれないという恐怖心と闘いながら、俺は今日もこの人の前に立っている。
「大丈夫か?」
奴が小走りでこちらに向かってくる。
俺はそれを左手を突き出して制した。
「……ッ当然!」
そう言って力強くミットを構えると、奴は決まって感心した様に笑う。
それがあるからこそ今までやって来れたのだ、なんて恥ずかしくて言えないけど。
「よぉ、お疲れ隆也」
更衣室で俺に声をかけて来る時のコイツは、練習の最中よりずっと機嫌がいい。
まぁ俺としても、怒られて喧嘩するよりはこうやって優しく接してもらう方が楽で有難い。
最近は以前と違って、少し俺の事を気にかけてくれてる様になった。
怪我については軽くだが謝ってくれるし、以前の様に俺の技術が未熟だと言い捨てる事もしなくなった。
バッテリーとして大事にされ始めたのかと思うと嬉しくて、俺はどんな怪我にも苦痛にも堪える事が出来るのだ。
(なんて、)
騙されるとでも思ってんのか!
奴の真意は別の所にある。
そして奴は去り際に傷だらけの俺の体を見て、
満足そうに目を細めた。
(あぁ、本当にコイツは、とんでもないサディストだ。)
その傷は独占の証さ