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一人ぼっちの大掃除(HA)


今日家に隆也が来る事になった。
俺は目覚ましが鳴る30分前にギカッと目が覚めた。
隆也が来るのは午前10時。
タイムリミットは3時間を切っていた。



【一人ぼっちの大掃除】



俺の目は冴えていた。
いや本当に、家族が気味悪いと言わんばかりの視線を投げ掛けてくる程に、本日俺は寝起きが良かった。

目の前に置かれた朝食を箸でつつきながら、俺は脳内でシュミレーションを繰り広げる。

『まず脱いだままの服を洗濯カゴに入れる。んで散らかった物を片っ端から棚に詰めて、掃除機をかけて雑巾で床を拭く。それからえーと、えー…』

自分で部屋を掃除するなんてかなり久しぶりで(つーか最後に掃除したのっていつだ)、俺は混乱していた。

『だって今日は隆也が来る』

認めたくは無い事なのだが、俺は阿部隆也に他とは違う妙な感情を抱いている。
いやいや、実際マジで認めたくはない。だってホラ、認めたらアレじゃん、俺いわゆるホモじゃん。
いやいやいや、考えすぎだその発想は行き過ぎだ俺。ホモなわけないそんなわけない俺は男にゃ興味ない。
そーだアレだ、隆也はただの後輩だしアレだうん。まぁこの場は百歩譲って可愛い後輩としといてやる。
そんな可愛い後輩に俺のダメダメでだらしのない姿なんて見せてやれるもんか。それもあの生真面目隆也だ。どれだけ容赦ない事言われるか分かったもんじゃない。ここは一つ俺の出来る先輩的な貫禄を見せつけてやろうじゃねぇか。うんそういう話。
俺は混乱していた。




とりあえず朝食をかきこんで、掃除機・雑巾の2大掃除屋コンビと共に自室へと駆け込む。
勿論ろくに掃除を施されていないその部屋は酷い散らかり様だった。朝起きた時はもう少しマシに見えたのに。
あっ何かこんなん考えてたらこの部屋が変な臭い放ってんじゃねーかと不安になってきた。隆也がこの部屋に入っての第一声が「くさっ」だったら俺すげーショックで立ち直れなくなる。汚いって言われるより遥かにキツい。

俺はそこら中にファブリーズを吹き付けまくった。
目に見えない緑茶成分とやらに囲まれながら、俺はそれでもまだこの部屋から臭いが取り除かれていない気がして、机の上の香水を手に取った。

いや待て、血迷うな俺。そういえば隆也はこの間この香水を嫌いだと言った。

「何色気付いてんだアンタ気持ち悪い。アンタ自信もその香水の匂いも本当に気持ちが悪い」

そうズタボロな感じに吐き捨てられた。
俺はあの心底俺を気持ち悪がる様な見下す様なアイツの目が忘れられない。
俺はおとなしく窓を開けて換気に臭い消しの全てを託す事にした。


次に俺は足の踏み場を数少ないものにしている脱ぎっ放しの衣類をどんどんカゴに放り込だ。
それからゴミも袋にまとめて出しに行く。
後残ったのは部屋にある必要な物や教科書を中心とした本類なのだが、それは今日隆也の目に付かなければどうでもいい。何せ俺には時間がない。
と言う事でそれらをショベルカーの様にまとめてクローゼットに突っ込んだ。完璧である。この勝負俺の勝ちだ。


そして隅から隅へ掃除機をかけ雑巾で水拭きし(小姑とかが口煩い棚の埃や窓の桟まで拭き取ってやったぜどうよ)俺の部屋は見違える様に綺麗になった。
そこで昨日ベットのシーツを洗っていた事を思い出して取りに行く。
だってホラこういう場面だ。いつ(自主規制音)な事になるか分からない。
や!俺はホモじゃないけどな!もしかしたらアイツがホモで俺を押し倒してきたりとかした場合の話だ。そういう非常事態を考えての一手先の行動だ。あでも下は微妙かも…



ピカピカと輝くオーラが垣間見える(ように錯覚する)自室をニヤニヤと見渡しながら俺はそんな妄想を繰り広げる。時刻は9時30分。

埃が混ざってむず痒い頭を掻く。
そして俺はここである事に気が付いた。



俺自身は何の用意もしちゃいねぇ




心の中で悲鳴を上げながら俺は浴室へと猛スピードで向かった。
3秒で服脱いで10秒で頭洗って15秒で体を洗う。
それからかつて無い程のスピードで私服に着替え、ドライヤーで荒く髪を乾かして整髪料を手に付けた。
隆也の事を頭の中で考えながら鏡の前で頭をセットしていると、突然無性に恥ずかしくなって念入りにチェックまではしなかった。

脱衣場から出て飲み物とか出した方が良いのかな、などと思考を巡らせていたら、待ちに待ったインターホンが鳴った。



「よ…よぉ隆也」

「どーも」

心臓が破裂しそうなくらい緊張している俺とは真逆に、冷めきった挨拶をしてくるいつも通りな隆也に少し安堵の気持ちが芽生える。

「どーせ元希さんの部屋汚いんでしょうね」

廊下を進みながら隆也が言った。
勝った、そう思った。

「いや!普通だけどな!」

今に見てろ!俺の意外な一面を目の当たりにして言葉を失うがいい!これからはノーコン投手やらアホ榛名やらそんなナメた口利けないようにしてやる!
口をポカーンと開けたアホ面隆也を思い浮かべてニヤニヤしそうなのを堪えて、俺は廊下を進んだ。

「ここ」

キィと扉が開く。
部屋の中を見て隆也はぽつりと呟いた。

「ここが元希さんの部屋…すか」

「あ…あぁ!まぁまぁ綺麗にしてるだろ!」

「ふぅん…何ていうか」









「全然元希さんの部屋っぽくなくて気持ち悪い」






その晩俺は泣いた










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