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似た者同士な二組(HA+HI)


「あれ、阿部?」

ここら辺ではオーソドックスとなっている待ち合わせ場所で、
俺は意外な人物と遭遇した。



【似た者同士な二組】



「泉?」

そう言ってこちらに向かって来るのは、私服姿の阿部隆也。
黒のポロシャツにジーンズというラフな格好が、イメージ通りでよく似合う。

「何してんのこんな所で。誰かと待ち合わせ?」

「あー…ちょっとね」

阿部はそう面倒臭そうに答えて、最後に舌打ちを付け加えた。
誰と待ち合わせかという質問には応じてくれなかったが、そんな態度を見て、とりあえず相手は三橋じゃないなと悟る。

水谷辺りだろうか。でもアイツと阿部が二人で出掛けるとか、一体どういう状況だよ。やっぱ大人数かな。

何となく訊きたかったが、阿部が触れて欲しくなさそうな顔をしていたのでやめておく事にした。

「どこ行くの?」

「ん…買い物」

「阿部の?」

「いや…」

阿部は部内でも堅物でノリが悪い方だったが、今日はまた一段と返答がぶっきらぼうだ。
しかも会話を交わしていくに従って、すごく帰りたそうな顔になっていく。

でも阿部ならそう言う時ハッキリとそれを相手に伝えるだろう。

なのに今日は帰ろうとする気配すらない。益々怪しい。

「帰りたいの?目が死んでるぞー」

「正直」

「キツいなら相手にそう言えば?」

「あぁ…それが通じる相手なら良いんだけど」

そう言って、阿部が深く溜め息をついた。
こんなに他人から振り回されている阿部は見た事がない。

そんな阿部をまじまじと観察していた最中、聞こえてきた声。
それに俺は驚くと同時に、あぁ、と妙に納得をしてしまった。




「隆也!」

人込みの中でもやけに目立つその男は、以前も耳にした真っ直ぐな声で阿部を呼んでいた。
特に急ぐ様子もなく歩を進めるその男を見て、阿部は再び大きな溜め息をついた。



「元希さん遅刻」

「るせ!」

「自分からいきなり呼び出しといて遅刻して、何すかその態度」

「あーもう悪かったっつの!テメェは相変わらず細けーな!」

「元希さんがルーズすぎなんですよ」

「なんだとー!?」

会うや否や隣りで喧嘩を始めた二人を見ながら、俺は阿部ってこんな奴だったっけ、と普段の阿部を思い浮かべていた。

阿部は三橋と一緒にいる事がほとんどだから、生真面目で少し短気、でも人に気遣いが出来る大人なタイプだという印象を持っていた。
だけど今は先輩相手に結構激しい口喧嘩を繰り広げている(しかも勝ってる)

阿部って案外面白い奴だな、と笑うと、阿部がギラッとこちらを睨んできた。

「俺が帰りたがってた理由分かったか?」

「ハァ!?帰りたいとか何生意気言ってんだ!今日は一日付き合ってもらうからな!」

「冗談!アンタと居たらこっちまで馬鹿になるんすから!つーかさっきのはアンタに言ってない!」

「てめっもう一遍言ってみろアァ!?」

などと二人は会話か喧嘩か分からないようなやり取りをしながらも、目的地であろう目前に聳えるデパートへと向かって行った。

それがおかしくて必死に笑いを堪えていると、もう二人の姿は人込みの中に消えていた。


阿部も年上相手に苦労してんだな、楽しそうだったけど。
この話題だと、アイツとも話が弾むかもしれないな。


そんな事を思っていると、人込みの中遠くで揺れる金髪が目に付いた。

いつもは遅刻なんて見逃すけど、俺の方からそれを咎めたら、奴はどんな情けない顔をするだろう。
俺が何も言わなくたって、何度も謝ってくるのに。…やっぱり可哀相かな。



息を切らして向かってくる奴が俺に辿り着くまで、

残り数メートル。








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