言葉を選ばなくても、大した気を遣わなくてもいい。
隆也と外に出掛けるのは、気が楽で好きだった。
【あの頃にはさよなら】
買い物っつーのはやっぱり一人より二人のが楽しいもんだ。
隣りにいるのが隆也ならば、尚の事。
ひやりと冷房の利いた広いデパート内をぷらぷらと歩く俺、の隣りで歩速を合わせてついて来てくれる隆也。
「昼食べて来てないんすから、奢って下さいよ」
「へーへー」
一応先輩と後輩、こういう会話はよく交わす。
まぁ隆也だって常識ある奴だから、いつもの調子で行けばマックくらいで我慢してくれるのだろう。
「今日は何買うんですか」
「あー、私服と日用品。あとシューズ」
「元希さん服なんて買いに来たんすね」
「俺が服買ってなんか文句あっかよ!」
「どうせ野球ばっかであんまり私服なんて着ないでしょ。そんなに買わなくても…」
「俺は毎シーズンサイズ合わなくなってんだからしょうがねーだろ!」
それに現在野球の事で頭いっぱいだと言っても、そういった事に全く興味が無いわけではないし。
俺は服飾店内にてめぼしい品を掴んで、隆也に押し付けた。
「どれが良い?」
「さぁ…まぁ強いて言うならこれかな」
「じゃこれな」
そんな決断の仕方で良いんですかなんて言ってる隆也を尻目にレジへと並ぶ。
隆也が選んだものなんだから駄目なワケねーよ、と我ながら恥ずかしい事を思いつつ会計を済ませた。
これって変な事なんだろうか。
俺はいつもこうやって服を買うのだが、その度に隆也は呆れた様な顔をする。
「元希さん腹減ったー」
「あぁ…マックでいいか」
「別に良いっすよ」
俺達は共にマイペースな方だった。
でもそのペースが合っているから、他の奴等と比べるとかなり付き合いやすい。
少なくとも俺はそう思っている。
性格はそんなに似てない筈なのに、好みや思考が驚く程一致していたりする。
何というか隆也は俺にとって、他にはない特別な存在なんだ。
それから俺達は食事と一通りの買い物を済ませ、適当にデパート内を徘徊した。
すると突然、隆也がある店のショーウィンドウを指差し、はしゃいだ様な声を上げた。
「元希さんアレ!」
そこに飾ってあったのは、両手で抱える程の大きな猫のぬいぐるみ。
店内に駆け込んだ隆也は、珍しく楽しそうに目を輝かせてその黒い猫を抱いた。
ふわふわとした手触りの目付き悪い黒猫に向かって、これ元希さんにそっくりじゃん、と隆也は笑った。
そんな姿を見て、素直に可愛いなーなんて思う。
男相手になんつー感情抱いてんだと己にツッコミを入れるが、それでも隆也はなんだか可愛い。
「ん…何?」
「なにもねぇよ」
「ふぅん」
今の隆也は、俺のよく知るがきんちょで生意気でちんちくりんなあの頃とは違う。
大人に近付いていく体格に声、性格や言動。
俺の知らない所で作り上げられていく…過去とは違う、隆也。
コイツの成長を喜びながらも、どこかで寂しがっている自分がいる。
次会った時にも、隆也には何かしらの変化が表れている事だろう。
「元希さん?もう帰りますか?」
俺の数メートル前方で、隆也が振り向いた。
何も返事が出来ずに、隆也を見つめたまま突っ立っている俺。
「あぁ…帰るか」
こっちに来いよ、と言いたいのに。
俺の隣りに居ろ、って言いたいのに。
明日も明後日も、俺の傍に居てくれ、って言いたいのに。
なのに、そんな事言ったらコイツは困るんだろうなと思って、
オレはその言葉を飲み込んだ。
言いたい事そのまま言葉にしていた、あの頃とはもう違うんだ。
アイツの中で、俺がどんな存在として息衝いているのか判らない辺り、そんな事が気になる辺り、
俺と隆也の関係は、以前とは変わってしまった様だった。