あぁ、今日は暑いような暑くないような。
俺は手元にある冷房のリモコンに手を掛け、しかし何のボタンも押さずにその手を引っ込めた。
【暑いです】
「なぁなぁ隆也」
人のベットの上でごろごろだらしなく寝そべるそいつは、自分の手相をまじまじと見つめながら言った。
「暇」
そのベットの端にて野球雑誌を広げる俺は、次の1ページを捲りながら返事をした。
「うん」
あぁっ隆也も暇かー!とそいつは勢いよく上半身を起こす。
隆也と意気投合だ、嬉しい、とそいつは笑う。
「なぁなぁ隆也」
「はい」
「こっち来い」
そいつはまたごろりと寝転がって、ベットに乗せた自分の頭の上をぱしぱし叩いた。
俺は何も言わず、その指示された場所にて胡座をかき、また雑誌を読み始める。
「隆也ー」
甘えた様に高めの声を出し、間もなくそいつの手が伸びて来た。
腰を掴まれ、引き寄せられる。
そいつの腕が俺の腰にするりと絡み付き、そいつは自分の顔を俺の腹部に埋めた。
服の網目を通り抜けて、そいつの吐く息が腹にかかる。
熱さとくすぐったさに身をよじると、そいつは更に強く俺の上半身を引き寄せた。
「隆也、隆也隆也隆也」
「はい」
「ちょー…安心する」
腹部に顔を擦り付けて楽しそうに脚をばたつかせるそいつに「変態」と名付けたのは随分前の話。
俺はそいつの頭の上に雑誌を置いて、黙々とページを捲った。
「隆也ー」
「はい」
「ずっとこうしてろー」
「自信ないっす」
「んー…俺寝るから、身動きして起こすなよー」
俺がそれは困ったと目を泳がせている内に、そいつはくぅ、ふぅ、くぅ、と外見に似合わない寝息を立てながら夢の世界へと向かってしまった。
雑誌の位置を少し上げてみて、そいつが寝付いたのを確認する。
そしてその黒髪が手の平に触れる程度に、そいつの頭をそっと撫でた。
眠りに入っても尚強く俺に絡み付いて離れない二本の腕。
こいつはこの体制が好きなのらしい。
俺は結構キツいのだが、こいつからこんな風に独占欲を示されるのに、実はあまり悪い気がしない。
「元希さん、元希さん」
そいつは起きなかった。
あまりにもその寝顔が穏やかなもんで、無理やり起こそうとは思えない。
「暑いから、冷房入れていいですか」
了承する者のいないその質問を空間に吐き出し、リモコンを手に取る。
設定温度27℃。快適。
熱いです。
(俺の顔、が。)