子供みたいだった。
俺を強く抱き締めて、俺の肩に顔を埋めるそいつの姿はまさに。
【笑って】
なんで、何も言って来ないのだろうかとか
なんで、頭を上げてその顔を見せてくれないのだろうかとか
そいつの体温を直に感じつつ、俺は思っていた。
奴の心理が掴めないのは初めて会ってからずっと、
俺を置き去りにした時だって、
俺がその肩を壁に押し当てた時だって、
今だって、
俺は奴の考えている事がわからない。
「言葉に出してくんないとわからない、元希さん」
俺はこいつが思っている程にこいつを知らないし理解してもいないし感情を察知する事も出来ない。
俺のこいつへの感情は自分でも表し難い程複雑で、不安定。
好きだったり嫌いだったり、好きになったり嫌いになったり。
「元希さん、何か言ってよ」
こいつの事を考えるだけで、心の中に靄がかかったみたいになるのは何故だろうか。
妙な感覚で考えるのをやめたくなる。言葉で伝えるにはなんとも難しい。
「なぁ…シカト?」
嫌いな所を指折り数えたら5本じゃ足りない。
両手の指を何度も折って述べられる。
好きな所を指折り数えたら5本も必要ない。
親指を折った所で止まるそれは、嫌いな所10個が集まっても敵わないくらい俺の中で大きなもので。
距離的に遠くなった現在も、多分それは以前と変わぬ唯一にて不動の第一位。
「元希さん、てば」
我儘で横暴で自意識過剰で超頑固。
これだけ嫌いな所があれば、そのまま奴自身を嫌いになるのは容易であるだろうに。
「それだけがアンタの好きな所なんだから」
「こっち見て、笑ってよ。元希さん」
じゃないと嫌いになるぞ阿呆。
だからほら、
そんな苦しそうな顔、
もうするなよ。