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出撃!即防御!←失敗(H→A)



今日も鏡の前で髪型のセットばっちし、寝癖と間違える奴はブッ殺。
歯の白さを追求しています。
朝食にはこだわります。
ネクタイは敢えてのゆる巻き。


飛び出せマイホーム向かえ青春、
榛名元希今日こそ
阿部隆也を落としてみせます。



【出撃!】




人通りの少ない路地を歩く早朝。
というかまだ夜が明け切っていません、清々しい空気とは裏腹にどんよりとした雰囲気の住宅地です。
俺が探すのはただ一人、こんな馬鹿みてぇに早い時間から制服着てチャリ漕いでるあいつだけ。

俺は悠然と、且つてくてくという可愛らしい擬音を足下から発しながら歩く。
置き勉常習犯な為俺の持つ鞄は弁当分の重さしかない。
加えて練習道具一式、こっちは結構重い。

はあ〜ぁ早く見つかんねぇかなと目をキョロキョロさせると、




「あ!いた!」

「げっ」


隆也は俺に会うのが照れくさかったのか音も立てずにそろりそろりと自転車を漕いでいたようだ。可愛い奴め!



「たーかやー!」


ダッシュで追いかける俺と全速力でチャリをとばす隆也。さすがに追いつきはしねぇけど…


「行き止まりだからな〜そっち!」


これぞ頭脳プレイ、俺に追いかけられながら知らない内に誘導されていたという恥ずかしい状況に置かれた隆也は、顔を真っ赤にして(ここは俺の脚色だがきっとそうであったに違いない)肩を落とした。可愛い奴め!


「隆也はよっ!」

「…………あんたは毎日毎日なんなんだ!!」

「ん?」


キョトンとしてみせる俺、振り返って顔をしかめつつ歯ぎしりする隆也。
親を真似て威嚇の練習をする子犬みてぇ。和む。


「つーか俺は挨拶しようとしただけなのになんで逃げんだよーつれねぇな」

「こんな早朝から意味もなく学校行く阿呆がどこにいやがる!しかも荷台掴まえてんな離せ!」

「失敬な〜俺もお前と同じく部活だっての」

「武蔵野は逆方向だろぉがああぁぁぁぁ」


隆也はジタバタしながら俺が引き止める自転車を動かそうとする。なんかもうよく分からんけども和む。さすが隆也。


「たまには良いじゃんおサボり!一緒にコンビニ行こうぜ、今日は奢ってやっから」

「あんたがそんな事言う日はろくな事がないって俺は学習してるんですハ・ナ・セ!!」


一瞬力強く自転車が跳ねたのに驚いて手を離すと、隆也はまた凄いスピードでチャリを漕いで行ってしまった。
んだよ、意外な一面を見せつけて落とすつもりだったのに。
つっても俺今うまい棒すら買えるかどうか危うい金額しか持ってねーんだけど。
いやうまい棒とか駄目だな、そんなもん食ってる隆也見たら俺ぜってー発狂するもん。


てそんな下ネタは置いといて。俺は以前俺が隆也に言ったあのセリフがあいつにうつってるのを嬉しく思っていた。
あいつもだいぶ俺色に染まってきたじゃねぇか!

たちまちご機嫌になった俺は、吹けない口笛の練習をしながら軽い足取りで学校へと向かった。





チャリ漕いで漕いで漕いで息切れ、楽しい練習もどんよりげっそり

振り回されすぎている、だがしかし逃れられない魔の左手、チラ見せ光る歯どう見てもただの寝癖ヘアスタイル、



俺は榛名元希に翻弄されているのか、絶対認めなくないな。



【即防御!】



「ハァァ…」


大きく深い溜め息を吐きながら、俺は教室の机に沈んだ。


「どしたの阿部ぇ〜?練習疲れた?」


水谷がこちらに向けて来る脳天気な笑顔を払いながら目を瞑る。


「俺は練習の前から疲れてた」



ここ最近ずっとこれだ。
毎朝毎朝榛名に待ち伏せされしつこく追い回され捕まったら何言っても開放されねぇ。

なんなんだあいつ本当なんなんだ俺恨み買うような事したかよ。
あいつの執拗な行動はなんなんだ。


「水谷…」

「ん?」

「毎日同じ奴からしつこく告白されるのって、どう思う」

「え〜…うーん…ちょっと、引くかなぁ」

「ドン引きだろ」


阿部?と鈍感な水谷が首を傾げながら聞き返して来る。

そこで担任が教室内に入って来た為会話は途絶えたが、俺は尚机に沈んだまま気を落ち着かせる事に集中した。

なんだか今日は嫌な予感がするのだ。俺の悪寒は的中するもんだから恐ろしい。




それから平凡なまま午前の授業は終了し、昼休みに入った。
目の前で美味そうに売店の生クリームメロンパンを頬張る水谷をぼーっと見つめて箸が休まる。
俺の異変に気付いたのは花井だった。


「阿部食欲ねぇのか?どうした」

「なんでも…」


まさかここでそれはあの阿呆糞俺様ノーコン野郎のせいだよなんて突拍子のない事は言えない。
俺じきに鬱病になるんじゃないだろうか。本気で不安なんだが。


「まぁそれなら良いけど。阿部ってたまに抜けてる時あるもんな」

「あーー………………ッ!!!?????」


勢い良く椅子を引き机の下に潜った俺に二人が目を丸くした。
じゃねーよマテマテマテ今のは何だ今廊下側の開け放された窓からほんのちょっぴり見えた水色はなんだ…!!!!!


「ターカヤアアアァァァ!!!!!!」

「!!!???」


水谷と花井が座ったまま跳ねたのが机の下からでも確認出来た。
聞き覚えのありすぎる声に生汗が出る。マテマテマテこれはどこぞのホラー映画ですかミステリードラマですかサスペンス劇場ですかつぅか待てエエェェェ普通に考えてアリエネエエェェェェあの人何がしたいんだ本当何がしたいんだ何で普通に入ってきちゃってんのえ、え、あいつの頭完全アブノーマルノーコモンセンスかうわあああああ






「たかやああぁぁぁぁ」






俺の名を呼ぶな!!!!!!


ざわ…ざわ…とどよめく周囲。机の下に向けられた痛い視線、蹴りたい榛名。




「あ、阿部っどうすんだよ!?(小声)」

「知るかああああ奴が勝手に帰るか教師に呼び止められるかするまで俺は絶対ここを出ねええええ!!!(口パク)」

「ねぇ大丈夫なの他校生だよ!?勝手に入ったらヤバイんじゃ…(小声)」

「俺は知らねえええ完璧無関係だからな!奴がどうなろうと知ったこ…(口パク)」


「おーいあっべー!(大きな声)」


今度は三人で跳ね上がると、それは廊下側の窓から身を乗り出して叫ぶ田島の声であった。
ずんずんと田島がこちらに向かってくると同時に俺は青ざめた。
お願いだ田島今日こそは空気を読め言動を慎め声量を下げろ!!!


「榛名呼んでるぞー…てアレ、花井ー阿部は?(大きな声)」

「や…阿部はちょっとなー(普通の声)田島、静かにしろ!阿部は今隠れてる!(小声)」

「へ…?」


花井が指差す先、机の下で田島と目が合う。
花井ナイス!このまま田島に上手い事はぐらかしてもらおう!
…そう思えたのも、束の間だった。

「阿部ー!!何隠れんぼなんてやってんのおもしろそー!俺も混ぜてー!!!!(大きな声)」





ギャアアアアアアアア、俺は心の中で叫んだ。








【出撃!即防御!←失敗】



「たかやー照れ隠しかぁ?それよりなぁ、俺お前が寂しいと思って、わざわざ来てやったんだぜ!一緒に昼飯食おーな!」

「あんた…俺以外友達いねーのか…」

「ばっばか…!俺達はもう…それ以上の関係、って…俺はそう、思ってるぞッ」


俺は思ってねぇよ

「おまっ今はノるとこだろうが!認めちまえ楽になるから!」

「あんたと居て楽なんて見出だせるかよー!!!」










それを見守る三人、田島を除く二人は、
ああ阿部哀れすぎる、とただただ同情をするしかなかった。
(後日阿部はノイローゼになって水谷花井の前でちょっと泣いた)








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