小説(パロ) act.3 黒ヤギさんの目の前には、大きなバースデーケーキがありました。長方形のケーキの周りはピンクのクリームで飾られ、中央には黒ヤギさんの似顔絵が描かれていました。青い瞳は、水飴で描いたようです。 ぱっと見ただけでも、大変手間がかかったことが分かりました。 「誰かにケーキ作んの初めてだからさ、勝手がわかんなくてよ…へへっ。その…気に入ったか?」 白ヤギさんはそう言って、人差し指で鼻先をこすりながら、照れくさそうに笑いました。 「……り……がと」 一瞬、間を置いた後、声を詰まらせるようにして、黒ヤギさんは答えました。手の甲で目の辺りをごしごしとこすっています。 「え?泣いてんの?」 白ヤギさんは、黒ヤギさんの思わぬ反応に少し焦りました。何もかもが初めてのことで、どうしたらいいのか分からなかったのです。けれど、どうすればいいのか分からないのは、黒ヤギさんも同じことでした。 「バカっ…泣いてねぇ…よ」 そう言い放った黒ヤギさんでしたが、鼻をすすりながらでは、説得力がありません。 「そっか…んじゃ、そろそろ蝋燭に火つけっかな。願い事の準備はいいか?」 黒ヤギさんの涙には気づかぬ振りをして、白ヤギさんは蝋燭に火を付けました。 曇り空とはいえ、今は昼間です。暗くする為にカーテンを閉めると、オレンジ色の暖かい灯が部屋を包み込みました。 二人の影が大きく壁に映し出され、まるで寄り添っているかのように見えます。 「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー♪」 白ヤギさんが、お誕生日の歌を歌います。黒ヤギさんは少し照れくさそうです。 「ハッピーバースデー、ディア十四郎〜♪ハッピーバースデートゥーユー♪」 歌が終わると、黒ヤギさんがふうっと息を吹きかけました。一瞬にして視界が暗くなり、それと同時に、パチパチパチという拍手がしました。 「十四郎誕生日おめでとう。それから…誰かの誕生日を祝う機会をくれてありがとな」 暗がりの中でも白ヤギさんが笑っているのが、黒ヤギさんには分かりました。 「銀時…」 黒ヤギさんはまた目頭が熱くなるのを感じました。言葉を続けたら、涙がこぼれそうです。 白ヤギさんがカーテンを開けに行った隙に、黒ヤギさんは涙で潤んだ目頭を、袖で拭いました。 [*前へ][次へ#] [戻る] |