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小説(パロ)
act.7
「気がついたら、アンタのこと好きで好きでたまんなくなっててさ…」

白ヤギさんは、お菓子の缶に視線を落としたまま、ぽつりぽつりと話し始めました。
毎日、黒ヤギさんを見ていたこと…手紙は自作自演だったことなど…。

「ほんの少しでいいから、アンタとの接点が欲しかったんだよ…」

目を伏せる白ヤギさんのその手は、抱えていたお菓子の缶を無意識に握りしめ、白くなっていました。

「やっぱ……気色悪ぃよな、ははっ」

そう言って、頭をかきながら笑う白ヤギさんでしたが、その表情はとても悲しそうに見えました。

「いや…その…」

黒ヤギさんは、何か言葉をかけなくてはと思いましたが、気の利いた台詞が出て来ません。

「いいんだ。こうしてアンタと口をきけただけで満足だ。明日から配達のルートを変えたって文句は言わねぇよ…ずっと一人だったんだ、今までと何も変らねぇし」

そう言うと白ヤギさんはキッチンへ引き返し、出来たてのお粥を手に戻って来ました。

「腹減ってんだろ?食えよ。俺、結構料理上手いんだぜ」

ほわっと温かくて優しい香りが、黒ヤギさんの胃を刺激します。次の瞬間、きゅるるとお腹が鳴り、黒ヤギさんの顔はみるみるうちに真っ赤になりました。

「ほら、腹の虫が待ちきれねぇって鳴いてるぜ?」

白ヤギさんに促されて、黒ヤギさんはお粥を食べ始めました。

「頂きます……」

フーフーと息を吹きかけ、熱いお粥を冷ますと木製のスプーンで口に運びます。

「……美味い」

お米がふっくらと柔らかく炊かれ、卵はふんわり塩は控えめ、ほんのり甘い絶妙な味加減です。
白ヤギさんは、美味しそうにお粥を頬張る黒ヤギさんを、満足そうに見ていました。

「まだたくさんあるから、おかわりしていいんだぜ」

誰かに手料理を振る舞うことが、こんなに嬉しいものかと、白ヤギさんは思いました。
あるいは、相手が黒ヤギさんだったから、余計に嬉しかったのかもしれません。お茶の用意をしながら、白ヤギさんはそんなことを考えていました。

「…おかわり貰っていいか?」

すべて平らげた黒ヤギさんは、空のお皿を差し出しました。白ヤギさんはそれを受けとると、おかわりを注ぎに行きました。
黒ヤギさんはおかわりが運ばれてくると、その湯気をじっと見つめながら、やがてはっきりとした声で言いました。

「まずは友達からってことで、手を打たねぇか?」

「へっ?」

素っ頓狂な声を出す白ヤギさん。

「俺、気味悪ぃとか思わねぇよ…けど好きとかどうとか、俺はそういうの分かんねぇし。
ただアンタのこと、もっと知りてぇって思ってる。そんな返事じゃ駄目か?」

今度は白ヤギさんが、きょとんと目を丸くする番でした。

「えっ…マジで?」

「マジだ、不満か?」

黒ヤギさんにそう言われて、首をブンブンと左右に振る白ヤギさん。その拍子に、自分の分として持って来たお皿からお粥がこぼれて、白ヤギさんの手に掛かってしまいました。

「あちっ!」

「おい!大丈夫か!」

黒ヤギさんが慌ててテーブルにあった布巾を濡らして持って来ました。
濡れ布巾を手に当てる黒ヤギさんの横顔を、まじまじと見つめる白ヤギさんは、手の痛みよりも心臓の鼓動の方が気になりました。

「こりゃ水道水で冷やした方がいいな。こっち来い」

黒ヤギさんに手を引かれて、流しに向かいましたが、黒ヤギさんの手が触れているところが熱くてたまりません。

「ほら。手ぇ、しっかり冷やせよ」

流水に白ヤギさんの手を当てる黒ヤギさん。自然と体が密着します。

「赤くなってんな…薬あるか?」

黒ヤギさんが白ヤギさんに訊ねました。

「…………」

白ヤギさんからの返答がありません。黒ヤギさんは、白ヤギさんの方へ振り返ります。

「おい、薬あんのかって聞い…て…?」

振り返った黒ヤギさんの視線を捉える白ヤギさんの視線。熱くて真摯な眼差しに、黒ヤギさんは目をそらせなくなってしまいました。

「………ありがとな」

次の瞬間、気が付くと黒ヤギさんは白ヤギさんの腕の中に抱き込められていました。

「マジで…ありがと」

さらにきゅうと腕の力がこもります。少し苦しい気もしましたが、黒ヤギさんは黙っていました。
白ヤギさんは、ずっと自分が気持ちの悪い存在だと思っていました。だから誰の温もりも知らず、優しいに触れることもなく、孤独しか与えられませんでした。

「けど、俺…友達なんて初めてだからよ、どうすりゃいいのか分かんねぇわ」

そう呟く白ヤギさんに、黒ヤギさんは言いました。

「友達の第一歩はな、名前で呼び合うんだ」

白ヤギさんはそれを聞いて、「そっか」と小さく頷きました。

「これから宜しくな…十四郎」

「ああ、俺こそ宜しく頼むわ、銀時」

白ヤギさんはそっと瞳を閉じ、二人の鼓動の重なりに耳を傾けました。白ヤギさんの尻尾が左右に揺れているのが、黒ヤギさんに見えました。

(…そんなに嬉しいのか)

子供みたいだと、黒ヤギさんは思いながら、白ヤギさんを抱きしめ返しました。甘い香りと暖かい体温が包み込みます。

黒ヤギさんは、これから色んなものを教えて、そして見せてやろうと思いました。そう思うと何だかウキウキした気持ちになりました。

(とりあえずは、俺んちに呼んでやるか)

そうして黒ヤギさんも、無意識に尻尾を揺らしてしまうのでした。





第一章 END

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