小説(パロ)
act.6
倒れたあと、ぐっすり眠っていた黒ヤギさんは、寝返りを打った拍子に何かに頭にぶつけ、目を覚ましました。
「んっ?…何だ?」
枕の下から出てきたのは、黒ヤギさんも良く知っている、子供の頃に大好きだったお菓子の缶でした。
「へぇ〜、懐かしいな。缶のデザインも変わってねぇ」
懐かしさを覚えながら、黒ヤギさんは何気なくその缶を上下に振りました。
「あとどんくらい入ってるか、こうやって振って確認すんのが好きで、よくお袋に叱られたっけ。はしたないってさ…」
そんな子供の頃の思い出にふけっていた黒ヤギさんでしたが、缶を振ったせいで蓋がずれて開いてしまいました。
「やべっ!」
慌てて蓋を押さえましたが、間に合わず布団の上に中身をバラ撒いてしまいました。
缶の中身…それはお菓子などではなく、手紙の束でした。白い封筒のそれは、黒ヤギさんが毎日配達していた手紙です。
「…どれも封を切ってねぇじゃねぇか」
開けられずにしまいこまれた手紙たち。黒ヤギさんは、しばらくその手紙を眺めていましたが、缶ごと手紙を抱えると、白ヤギさんを探して寝室を出ました。
「仕上げにこの卵を落として…っと」
白ヤギさんはちょうど黒ヤギさんの為に、お粥を作っている真っ最中でした。
「ん〜上出来じゃねぇの♪」
ほっこり出来上がったお粥は白い湯気をあげ、ふんわりと優しい卵の香りが辺りに漂っています。満足の出来に、口元をほころばせてご満悦の白ヤギさん。
そんな白ヤギさんのところへ、黒ヤギさんがやって来ました。
「アンタ、なんで手紙開けてねぇんだよ」
白ヤギさんが振り返ると、手紙の入った缶を抱えた黒ヤギさんが立っていました。
「………………」
白ヤギさんは言葉を失ったかのように黙って、俯いてしまいました。
「なんか訳ありなのか?」
白ヤギさんの様子に何か感じたのか、黒ヤギさんは優しく語りかけます。
やがて白ヤギさんは、何か意を決したように顔を上げると、黒ヤギさんのところまでまっすぐ歩いて来ました。
そして手紙を一通手に取ると封を開け、こう言いました。
「見ていいぜ」
黒ヤギさんの目の前に差し出された手紙。人の手紙を見るなんて、何だかいけないことをしているみたいでした。
けれども、白ヤギさんが封すら切らない手紙の内容…それがとても気になります。
黒ヤギさんは缶をテーブルに置くと、白ヤギさんから手紙を受け取りました。ゴクリと唾を飲み込んで、丁寧に封筒から手紙を取り出しました。
「ホントにいいんだな?」
黒ヤギさんが、白ヤギさんに確認します。それに白ヤギさんはコクリと頷きました。
ドキドキと高鳴る胸の鼓動を聞きながら、黒ヤギさんは二つ折りの便箋を開きました。
「………ん?」
黒ヤギさんの動きがピタリと止まりました。白ヤギさんは黙ってそれを見ています。
「白紙だ……」
黒ヤギさんはポツリとそう言うと、他の手紙も開けはじめました。
「これも……これも…こっちも……全部白紙じゃねぇか」
10通ほど開けて、ようやく黒ヤギさんは開けるのを止めました。
「何だよこれ。あぶり出しでもすんのか?」
黒ヤギさんの頭の中が謎だらけになってしまいました。白ヤギさんは開封された手紙を缶の中に戻して蓋を閉めました。
そして、答えを求めて自分を見ている黒ヤギさんに、静かな声で言いました。
「俺、アンタが好きなんだ…もちろんツガイ合いたいって意味で」
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