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小説(パロ)
act.4
その翌日から、手紙はピタリと届かなくなりました。

(手紙…今日も届かなかったか)

黒ヤギさんは、白ヤギさんの家の前に差し掛かると、自転車を止めて彼の家を眺めました。カーテンは閉ざされ、中の様子は分かりません。
黒ヤギさんは、自分のお節介のせいで手紙が届かなくなったのではないかと心配していました。

(白いヤギは不気味だと言ってた奴がいたが、案外そうでもなかったな…)

真っ白な彼の姿を見た時は一瞬驚きましたが、むしろその純白さに一瞬目を奪われました。暗い部屋の中でも、その毛並みが艶やかに光っているかのようだと黒ヤギさんは思ったのです。

(手紙が届きゃ、また訪ねて行けるのによ…って、なに期待してんだ俺は)

黒ヤギさんは、まるで会う口実を探すかのような自分が、急に恥ずかしくなって、慌てて自転車に飛び乗り、いつもよりペースをあげて自転車をこぐのでした。



その日の夜のことです。

白ヤギさんは、寝苦しさを感じてなかなか寝付けませんでした。何度もベッドの上で寝返りを打っていると、やがて空が白みはじめてきてしまいました。

(あ〜、完徹かよ)

ベッドの中で深い溜め息をつく白ヤギさん。何となく喉の渇きを覚えましたが、起き上がる気にもなれずに、ゴロンと仰向けになるとボンヤリ天井を眺めました。

窓からかすかに差し込む光で、天井にうっすらと影が映っています。そんな白ヤギさんの耳に、物音が聞こえました。

キィ…カタンッ

それは玄関の扉の小さな新聞入れを開けた音のようでした。不審に思いながら起きあがると、白ヤギさんは確認のため玄関に向かいます。

明かりを点けて、玄関を見渡すと、紙飛行機が床に落ちていました。作った記憶はありません。
白ヤギさんが紙飛行機を拾うと、その羽の部分に文字が書かれていました。

『玄関の外に置いていく』

何のことだろうと、白ヤギさんは首を傾げました。風に飛ばされて来たのかとも思いましたが、念のために玄関の外を見てみることにしました。

「これは…」

玄関の外には確かに、見慣れないものが置いてありました。それは、四つ葉のクローバーばかりが束ねられた花束でした。小ぶりであっても結構な数です。

白ヤギさんは辺りを見渡しましたが、真っ暗な景色が広がるだけで誰の気配もありません。戸惑いつつも四つ葉の花束に視線を落とすと、カードが入っています。白ヤギさんはそのカードを開き、書いてあるメッセージを読みました。

『この間はすまなかった 十四郎』

白ヤギさんは『十四郎』という名前を見て、ドキッとしました。それは、あの郵便配達のヤギさんのことです。
ネームプレートをつけていたので覚えていたのです。白ヤギさんの胸は早鐘を打ち、まるで口から心臓が飛び出しそうでした。

突然のことに震える指で、花束を鼻先に持っていくと、白ヤギさんは息を吸い込みました。花のように甘い香りはしませんでしたが、清々しい青葉の香りがしました。

「なんで…っ…」

白ヤギさんの瞳から涙がこぼれ落ちました。無粋な態度をとった自分を怒るどころか、気にしてくれるとは思ってもみなかったからです。
そして、このクローバーを集めるのにどれだけ時間がかかったかを思うと、白ヤギさんはいてもたってもいられませんでした。

(あの配達員が来たら謝ろう…あとお礼もしねぇとな)

それから白ヤギさんは、得意のクッキー作りに取り掛かりました。気に入ってくれるか分りません。けれど、何かでお礼の気持ちを表したかったのです。
誰かに物をあげた経験のほとんどない白ヤギさんは、期待と嬉しさで体がふんわり浮いているような気分でした。


…そしていつもの時間。

郵便配達の自転車がやってきました。通り過ぎる前に呼びとめようと思っていましたが、白ヤギさんの体は窓際から動く気配がありません。

(何でアイツじゃねぇんだ…?)

配達の自転車に乗っていたのは、見たことのないヤギさんだったのです。綺麗に包装されたクッキーの包みが、白ヤギさんの手から離れ床に落ちました。

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あきゅろす。
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