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小説(パロ)
act.7
「今夜の…俺の誕生日会さ…」

黒ヤギさんは、神妙な面持ちで口を開きました。前々から思っていたのです。白ヤギさんを、自分の仲間に紹介したいと…。
タイミングよく今夜は、仲間たちが誕生会を開いてくれることになっていました。そこに白ヤギさんがいれば、もっと楽しくなるだろうと、黒ヤギさんは考えたのです。
テーブルの下でぎゅっと握られた拳は、少し汗ばんでいました。黒ヤギさんは、口が渇きもつれる舌で、一生懸命言葉を紡ぎ出しました。

「その…もしお前が…あくまで、もしもの話だけどな…」

けれど、そこまで言いかけたところで、黒ヤギさんは言葉をぐっと飲み込みます。断られることが、とても怖かったからです。

「いや…何でもない」

黒ヤギさんは唇を噛むと、テーブルの木目をじっと見つめました。伏せた瞳に、どこか寂しそうな色が映っています。

「……そっか」

あえて追求はせず、ぽつりと相槌をうつ白ヤギさん。白ヤギさんには、黒ヤギさんの言いたいことが何となく分かっていました。

一瞬の静寂が二人を包みます。俯く二人…そんな中、先に顔をあげたのは黒ヤギさんでした。

「お前の…」

次は何を言われるのかと、少し上目遣いで黒ヤギさんを見る白ヤギさん。

「お前の誕生日っていつだ」

黒ヤギさんは、とても真剣な表情でした。何故そんなことを訊ねるのかと、白ヤギさんは思いながら答えます。

「え?……ああ…10月10日だけど」

白ヤギさんの答えを聞いた黒ヤギさんは、にっかり笑うと、ゆっくりと繰り返しました。

「じゅう…がつ……とおか…俺の誕生日の二倍だな」

何だか妙に嬉しそうな黒ヤギさん。黒ヤギさんの満円の笑みがあまりに素敵で、ドキドキした白ヤギさんは少し視線を逸らしました。

「よしっ、決めた!お前の誕生日は、1日一緒にいて祝ってやる!拒否権はねぇからなっ!」

そう言われて、白ヤギさんの心臓が痛いくらい跳ね上がりました。

「…………っ」

口を開きましたが次の言葉が出て来ません。誰かの誕生日を祝う幸せ…誰かに誕生日を祝って貰える幸せ…今年はそれをいっぺんに味わえるのです。しかも、大好きな黒ヤギさんと一緒に。

「ダチの誕生日祝うのは当然だからな!」

すごく良いことを思いついたと言わんばかりに、声高らかに宣言する黒ヤギさん。白ヤギさんは、目の前の黒ヤギさんを抱き締めたいと強く思いました。
けれど、そうはしませんでした。黒ヤギさんの体に触れたら、それだけでは満足出来そうにないからです。

「…そりゃ誕生日が楽しみだな」

代わりにそう言ってはにかむ白ヤギさんは、今までになく幸せそうに見えました。

「感動して泣かしてやるから覚悟しとけよ」

かなりやる気満々の黒ヤギさん。椅子から立ち上がり、尻尾をぴんと立てて、仁王立ちです。白ヤギさんは思わず噴き出してしまいました。

「あーはいはい、覚悟しますよ」

目の前で、誕生日の構想を練り始めた黒ヤギさんをよそに、返事をしながらお腹を抱えて笑う白ヤギさん。
こんなに笑ったのは生まれて初めてかもしれません。
思えば最近、初めてのことをたくさん経験し、白ヤギさんは、毎日新鮮な気持ちで過ごしていました。
あれもこれも、全て黒ヤギさんがもたらしてくれたものです。


たくさんの"初めて"をくれる黒ヤギさん。白ヤギさんの中で、淡い想いがますます膨らむような気がしました。

(初めて好きになった相手が、十四郎でよかった)

と、白ヤギさんはそう改めて思います。


いつの間にか、空が明るくなってきていました。暗雲をかき分けるように光が差し込み、地上に光柱が数本立ち並んでいるようでした。
それはまるで、白ヤギさんの想いを応援しているかのようでした。


END


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