小説(パロ)
act.6
「十四郎…そこ、ついてるぞ」
美味しそうにケーキをほおばる黒ヤギさんに向かって、白ヤギさんは言いました。
「ん?」
黒ヤギさんが、口をもぐもぐと動かしながら顔を上げると、すぐ目の前に白ヤギさんの顔が迫って来ていました。
あまりの至近距離に驚き、思わずぎゅっと目を瞑る黒ヤギさん。…次の瞬間、右頬に何かを感じて、思わず声を上げました。
「うわぁぁっ!」
黒ヤギさんが驚いて仰け反ったせいで、椅子がガタンと派手な音を立てます。
「ぎ…ぎぎ……ぎんとっ、今なに…舐めて…」
後ろに倒れることは免れましたが、すっかり混乱している黒ヤギさん。
「十四郎のほっぺた、マシュマロみてぇだな」
動揺している黒ヤギさんをよそに、白ヤギさんはペロリと唇を舐めながら、そんな事を言いました。
一方、黒ヤギさんは顔をさらに赤くして、持っていたフォークを振り上げるようにして立ち上がりました。
「おっ、お前、なんで舐めたり…すんだよっ。つーか、お前だって綿菓子みてぇな頭してるじゃねぇか!」
最後まで言って、黒ヤギさんはハッとしました。真っ白な綿菓子に例えたことを、マズいと思ったからです。
「あー…その、ふわふわしてるって意味だからな。色は関係ねぇ…っていうか…」
だんだんと俯き始める黒ヤギさん。バツが悪そうな表情で、口ごもります。
「ありがとさん」
そんな黒ヤギさんを見て、白ヤギさんはお礼を言いました。
「…何で礼なんか」
不服顔の黒ヤギさんに、白ヤギさんは、頬杖をつきながら答えます。
「ふわふわして触りたくなるような髪って言いたいんだろ?…何なら触るか?」
「なっ…」
まさかそう切り替えされるとは思わず、酸素を求めるかのように口ををパクパクさせる黒ヤギさん。頭の中が、絡まった毛糸のようになった気分でした。
「あはは、冗談だって…ただな、こうやって言い合いしたり、気を使われたりすんの初めてで…嬉しいつーか…何かいいなって思ったんだよ」
白ヤギさんは、そう言って優しく笑いました。白ヤギさんの笑顔は、穏やかでもあり、少し悲しそうでもあり、黒ヤギさんは胸が熱くなっていくのを感じるのでした。
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