小説(パロ)
act.5
「んな困った顔すんなって」
白ヤギさんが、黒ヤギさんの頭にポンと手を乗せました。きっと黒ヤギさんの迷いが顔に出ていたのでしょう。
黒ヤギさんの迷いが何なのかを、分かっていたのかは分かりません。ただ確かなのは、「好き」という気持ちを、白ヤギさんが決して押し付けないということ…。
黒ヤギさんには、白ヤギさんの優しさがとても安心出来ました。
「早く食ってくれよ」
白ヤギさんは何事もなかったかのように、ケーキの切り分けにかかりました。
「結構、自信作なんだよね〜」
ご機嫌の白ヤギさん。
「うっ…」
ケーキとは言え、自分の顔にナイフを入れられた黒ヤギさんは、思わず声をあげました。
「ん?どした?」
白ヤギさんがケーキを切る手を一瞬止めます。黒ヤギさんは、慌てて口を抑えながら、首を左右に振りました。
「ふーん」
一瞬不思議そうな顔をした白ヤギさんでしたが、手際よくケーキを切り分けると、ケーキの乗ったお皿を黒ヤギさんに差し出しました。
「さぁ、召し上がれ♪」
「おっ、おう…頂きます」
ケーキを受け取った黒ヤギさんは、しばしケーキを眺めていました。手作りということもあってか、見た目よりも重く感じられました。
ケーキの断面は、スポンジと生クリームと木イチゴが綺麗に並び、とても美味しそうです。
黒ヤギさんは、ゴクリと生唾を飲み込むと、フォークを取り、一口ほおばりました。
「………うまいっ」
ほどよい甘さの生クリームに木イチゴの酸味がアクセントとなり、しっとりとしたスポンジは口の中でほろりと溶けました。
「今まで食った中で一番うまいっ!お前すげぇな銀時!」
満円の笑みでそう言う黒ヤギさんを、白ヤギさんは笑顔で見ていました。黒ヤギさんの笑顔は、生クリームよりも、蜂蜜よりも、ずっとずっと甘いような気がしました。
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