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小説(パロ)
act.1
あるところに白ヤギさんが住んでいました。

白ヤギさんは毎日同じ時刻になると、決まって窓際のロッキングチェアに座り、イチゴ牛乳を飲みながら外を眺めるのが日課でした。
そして今日も、ちょうど仕事に一区切りがついたので、束の間の休息をとっていました。窓の外には、柔らかな日差しが降り注いでいます。

「今日は少しあったけぇな…」

そんなことを呟きながら、白ヤギさんは頬杖をつきました。

空の青、木々の緑、黄色や赤の花弁、地面を覆う芝生の若草色…世界はこんなにも彩りに溢れているというのに、白ヤギさんは、いつも浮かない表情をしていました。

白い毛並みだということが、白ヤギさんの心を曇らせているのでしょう。この国のヤギは、黒いヤギしかいないのです。
白ヤギさんは、自分の姿を他のヤギに見られることを嫌い、いつしか他のヤギと関わることをやめてしまいました。そんな白ヤギさんに、

『何も悪いことなどしていないのですから、堂々としていればいいんですよ』

と言ってくれたヤギもいました。孤児だった白ヤギさんを育ててくれたヤギさんです。その育て親のヤギさんは、いつもそう言いながら白ヤギさんの頭を撫でてくれました。
けれど、そのヤギさんも今はもういません。何年も前に、白ヤギさんを残して、空の星になってしまったのです。

それから長い間、白ヤギさんは一匹で過ごして来ました。他のヤギとは関わらず、朝起きて、仕事をして、お腹が空いたらご飯を食べて、夜は好きな本を読みながら眠るという生活を続けてきたのです。


そんな白ヤギさんの生活に、最近小さな変化が訪れました。

白ヤギさんの職業は作家でした。彼が書いているのは恋愛小説です。紙の上でなら、どんな話も思いのままでした。けれども現実の彼はと言えば、目の前の状況をもてあましておりました。

毎日決まった時間に、白ヤギさんの家の前を通る一匹のヤギ。誰よりも艶やかな黒毛を持ち、ふさふさの尻尾を揺らしながら走っていくその黒いヤギさんは、郵便配達員でした。
雨の日も風の日も雪の日も、毎日同じ時間に通り過ぎていく彼に、白ヤギさんはいつしか恋心を抱いていたのです。
手紙でも届けば、少しは状況が違ったかもしれません。けれど、彼に手紙を書こうなどというヤギはいませんでした。



今日も、黒ヤギさんが白ヤギさんの家の前を走りすぎていきます。

黒ヤギさんの姿を目で追う白ヤギさん。黒ヤギさんの姿が消えたあとも、しばらく窓の外を眺めていましたが、やがてズズ、と残りのイチゴ牛乳を飲み干し、その空のパックをゴミ箱に投げ捨てました。
そして、カタンと音を立ててゴミ箱に入ったパックを満足そうに一瞥すると、仕事の続きをする為に、また机に向かうのでした。

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