眠りひめ
ずっと眠り続けている少女がいる。
それを聞いたのは少しばかり昔だ。汚らしい部屋にいて汚らしい身なりをした男たちだったのは覚えている。
それももう殺したが。
気にも止めていなかったはずのそれを思い出したのはつい先日。
ボスである綱吉がどこからか持って来た本にそんな内容が書いてあった。暇つぶしによんでいただけだ。幼児ものを見る趣味など、ない。
結び付けるのも馬鹿ばかしいのにそうおもってしまった。
眠りひめ
今夜の仕事が決まった。
いつもはヴァリアー部隊が請け負うような仕事。
オレは暗殺なんてガラではないのに、綱吉のやつは嫌味な位ににこにこしながら言って来た。昔だったらこの時点で蹴り飛ばしている。
これから向かう先は以前人を殺した場所だった。
そうだったな。確が眠り続ける女゙の話をしていた奴らだ。
少し不愉快になる。いくら仕事とはいえ殺した殺害現場へ戻るのだ。後ろめたさはないが気分は悪い。
「おい、聞いたか?ネムリヒメの話。凄い美人でナイスバディらしいぞ」
車を降りてすぐすれ違いざまに男が相方にそう言っているのが聞こえてきた。
また、その話
とりあえず今は仕事だ。そう決め込んで忘れようとしていた、のだが。
「女の居場所、わかったらしいぜ」
一人の男の声が少し興奮したように言った。
そして追うように別の声がどこだかをきく。
「郊外のチェルーナの森の麓のあの館」
「へえ。あの汚らしい館に人がいたのか」
「死んでるかもな」
男たちは大声を起てて笑っていた。
どいつもこいつも、女の話ばかりで…欝陶しい。
(ここまで言われて興味を持たないやつがいるはずないだろ)
薄ぐらい部屋。扉を開けても気付かないこいつらは本当に阿呆だ。ゆっくりと近づいて一人の男に標準をあわせる。
隣にいた二人が気付いたようにこちらを向くがもう、遅い。
早打ちでオレに勝てるやつなどいるはずないのに、阿呆なやつらだ。
動かなくなった死体をまえにしてリボルバーの銃弾を入れ換える。もちろん使用済みは置いていく。オレが来た、という記し。
ふと男がにぎりしめていた鍵がきになり手にしていた。
それからすぐ物音がし、窓から飛び降り降りていた。
車に乗り込むころにはもう朝だった。
朝陽に向かうように車を走らせて煙草をさがすべくポケットに手を突っ込む。
ふと、硬い何かに手が触れた。それが鍵だと気付くまでに時間はようさなかった。
「郊外のチェルーナの森の麓のあの館」
確か、この辺りは…。
気付いた頃にはUタンしてその森へと向かっていた。
単なる、暇つぶしに過ぎなかった。
鳴り続ける携帯の電源を落として(着信は綱吉)森を走り抜けていく。
そう広くはない森を過ぎると一面に湖が広がりその更に奥にあるいばらで囲まれた館が、チェルーナの森の館。
朝陽が屋根を照らし不気味さを倍増させている気がした。
湖から先、車の通れるほどの道はない。
仕方がない。車を降りて目的地へと進んだ。
野鳥、うさぎ、リス。滅多に人がくることがないと思われるここだが動物たちが逃げることはなかった。
確かにここには人が住んでいるのだろう。
噂のネムリヒメなのだろうか。
「わん、わん!」
館に近づくにつれて犬の声が大きくなっていく。
野良犬なのだろうか。
そんなはずは絶対ない。
「ど…--た--」
微かに女の声がした。だが姿は見当たらないまま。一体どこに…。
不思議と彼女を探そうとする自分に失笑し戻ろうと身を返したときだった。
背後から何かが走りよってくる気配がした。
「わん!わん、くーん」
「なんだ、犬かよ。撃つところだったろ」
犬はハスキーだった。さしずめ番人といったところか。
「あ、ジェン!」
今時珍しい、旧貴族の暑苦しいドレス。
小さなハットを斜めに被り胸元にはトパーズのブローチ。
眠りひめだろう目の前のおんなはよそう以上に若かった。女、といっても女性より少女といったほうが正しいような、そんな風貌。
「はじめまして、チェルーナの眠りひめさま」
よそ行きようの顔に切り替えて、きまじめに片膝を地面について彼女の手を掬いあげる。
その瞬間ぴしりと凍り付いたように固まった彼女をみて笑いが洩れたのはいうまでもないだろう。
「な、なな何をするんですかッ!?」
顔を真っ赤にして手を振り払う彼女。
愛らしい、と思った。
「…眠りひめなんて、呼ぶ人まだいたんですね」
ぽつり、と彼女がもらした。
はかなく美しいまるで童話のひめのような横顔。
「なぜここにいるんだ? …独りだろう?」
なぜこんなことを聞いたのかなどわからない。
だだ彼女を一人にしていいのだろうか、など似つかないことを思っていた。
「…綺麗でしょ?この森も泉も。私、ここが好きだから」
はかなげに笑う彼女をみて更なる欲求に刈られるのがわかった。
「一人じゃ野蛮なやつらがおおいだろ。番人なんてどうですか、おひめさま」
それから始まったオレとマリアの奇妙な生活。
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