創作・短編小説
マジカル☆ラブレター
「私は今から貴方に最も恐れられてる魔法をかけるわ」
セーラー服に身を纏い、腰に片手をあててラブレターを付き出すみつあみの黒髪少女
なんと言うか、見た目は好みだけれど、中身が残念だと感じた瞬間である。
「…部活に遅れるから」
土曜日から柔道着を担いで学ラン姿の自分は、彼女が同じ高校に通ってる可能性を考えていた。
同学年なら、顔くらい見たことありそうだが、全くもって記憶にない
後輩か、先輩か。
「あら嫌な奴ね。女の子の告白を受けないつもりかしら?」
「告白、なのか。俺はてっきり陳腐な脅し文句を告げられたとばかり」
腹が立ったのだろうか。彼女は一瞬あからさまに眉間に皺を寄せて憎らしいものを見るかのように自分へ視線を投げ掛ける。
一瞬しっかりと見つめあった二人に流れた沈黙は彼女が破った。
「私だって告白したくないわよ。さっさとラブレターを手に取りなさい」
「告白したくないならラブレターを書くな。俺は行かせてもらう」
へんてこな女に違いない。反論しかけた彼女の横を通り過ぎようとした瞬間、彼女が手首を掴み引き寄せてきた。
女にしては力強く、不意を突かれよろけかけた俺の手にラブレターを無理矢理握らせるではないか。
途端に動機が速まり、俺は身体の熱が上がるのを感じると同時に弾む少女の問いかける声が聞こえた。
「どう!?」
頬を紅潮させ、期待を浮かべる表情で俺を見つめる名も知らない、中身が残念な女が、俺の胸を確かにときめかせた。女がきらきらして見える、なんて可愛らしいのだろうか
逆上せる想いに、咄嗟に理性が抗い叫ぶ『そんなバカな!』と。
「ッ、…!何を、」
苦々しく呟くと得意気な笑みが自分を見つめた。動機が脈打ち、速まる。
「私を好きになったかしら?ふふふ、その封筒には触った者が前の持ち主に恋をさせる魔法が掛かってるのよ、どう?私が好きでしょう!特別に私に告白することを許可す…」
あまりに長々しく喋る少女の説明も聞かずに横を駆け抜ける。何がなんだか分からないながらに、負けず嫌いな性分が、彼女に恋をしたことを認めたら敗北だと訴えていたのだ。
「なんで逃げるのよーーーーーーー!!!!待ちなさいコラァァァァ!!!!!!」
「追うな!!消えろ、魔法を解け忌々しいッ」
「私が好きよね!?好きでしょう!!認めなさいッ」
「冗談言うな!こんな偽物の感情に負けては漢じゃない!」
路地を駆け巡る学ランとセーラー服の少年少女の叫ぶやりとりを、聞いていた者は路地にはいなかったが爽やかな朝に響く声は、住人を起こすことにはなったかもしれない。
「私、がっ、好きっ、だと!認めなさーーい!!!」
セーラー服のスカートが宙へと舞うように高く上がった。
彼女は地面を蹴り上げ飛び付いてこようとしたのだ。振り返るとその滑稽にすら見える飛び上がりを、何故だか美しく感じ胸が高鳴る。
まさか、魔法を使って飛ぶのであろうか
してやったり、とニヤリと笑う彼女は直ぐ様ハッとしたように目を丸めた。
「あぁぁぁぁ!!魔法使えないんだったぁぁぁ」
その高さは自力で上がったのか、ならば先ほどの力強さも彼女本来のものかもしれない
怪力なのかもしれない、感心と胸の高鳴りが同時に押し寄せると共に彼女は地面へダイブした。
「…、…‥」
痛々しい姿に、この胸の高鳴りを無視しても逃げようとは思えなかった。
深呼吸し、この胸の高鳴りを自制してから彼女に歩み寄る
初々しいまでに彼女が恋しく感じる
なんて愛らしい姿だろうか。いやまて、認めてはならない、こいつは中身が残念なのだ。
「おい大丈夫か」
「…なんで、認めないのよ」
赤くなった鼻先をすんと鳴らして起き上がる。こちらを見つめ、泣きそうではないか。
「あんたの好みのタイプにまでなって、封筒にも魔法をかけたのよ」
「…中身がタイプではない」
ぐすぐす泣き出すので、胸が妙にどきまぎしながら、それでも冷静な自分が答えた。途端にぎろりと睨まれた。それにすらドギリとした。
「魔法、駄目だったのね」
睨むのをやめ、肩を落とす姿が哀れで、慰めたくなる。この気持ちは恋ゆえか、それとも単なる同情か。
「…いや、それはない」
「だって私を好きになってない」
「いや、うん…よし、これを受け取れ」
先程渡されたラブレターの封筒を差し出すと彼女は瞬きを数回してから、手にとった。
その途端、目を丸くさせ頬を染め上げ、自分のことを目を輝かせて見つめた。
しかし直ぐに憎たらしさに満ちるぎらぎらとした目を向け直す。
「なんであんたに恋してんのよぉぉ!!!むかつくーーっ」
胸を抑え、喚き散らす姿に、やはり、と思った。自分の胸はもうときめかない。
「触ったら、持ち主に恋をするなら、その持ち主は今は俺になったからだ」
「…、…もっかい受け取れ」
「断る。自分で解け」
ぎろり、と睨む姿には悔しさも滲まれていた。
「私、三編みなんか大嫌いよ。センスないし、セーラー服」
「そんな格好してまでよくまあ、」
「…魔法試験よ。これじゃ良くてCで、最悪落第よ」
指をパチン、と鳴らしてから盛大な溜め息。
「…、…何をしたら合格なんだ」
「魔法にかかって私に好きと告白するか受け入れるのよ」
「人の心を弄ぶ試験だな」
「記憶は消すわ」
苛々したように答える彼女は短気なのか、それとも短気になる程に緊張していたのだろうか。
緊張していたのなら、力を注ぎ込んでいたのだろう。
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