3 ガサガサ。ガサガサ。 痛っ、おいおい枝かよ。額掠っちまったー、って…ちょっと待て。 「何でこんなとこ通ってんだ、俺?」 『…気にするな』 「気になるっての!アンタはアンタで歩きだしたら無口になるし!」 『喋ることがない』 「…歳は?」 『レディに何を聞く』 「…趣味は?」 『瞑想』 「…特技は?」 『黙り込むこと』 「…婚約者は?」 『お前に興味はない』 「……」 ダメだ。何がダメって俺はこんなキャラじゃないんだ。 初めてなんですけど。ここまで一方通行な会話初めてなんですけど。 未だ土の色が見当たらない獣道に、不安と不満の色を隠しきれない。そんな忍、シカマルの前を歩く朱に包まれた少女は、惑うことなく前を進んでいる。 姫と聞いていたものだから、周りには護衛の者や牛車なるものがあるかと思えば、意外にも少女は1人だという。そして彼女は見上げていた門から目を離し、振り返ることなく里を後にした。 『おい、忍。お前…木の上跳べるか?』 「…人並みには」 『私を抱えて跳べ。東の方角へ向かって、だ』 「東の?それって逆方向じゃ、」 『ここからは、歩いていくには困難な道が続く。早くしろ』 「…へぇーへぇー」 わかりましたよっ、と言いながら手早く地面…とは言えない地を蹴る。 もちろん姫も忘れずに、俗に言うお姫様だっこをして。音もなく近くの大木に飛び移り、チラリと姫を見やれば、行け。と目でのご命令。 何を考えてんだか…全く読めねぇ。 俺自身も分かりやすい奴ではないと自他共に認めているが。こいつは俺以上に読めねぇんじゃないかと、ふと思ったその時だった。 『向かっているのはお前も察しているように故郷とは全くの別方向。そこに、私は用がある』 「な、用って…帰郷するんじゃないのかよ?」 『…木の葉の里へ依頼したのは父上だ。私は1人でもよかった』 「1人、って…」 『だから』 「…」 『…この森を抜けたら、お前は帰れ。任務はそこで終わりだ』 肌に感じる風はやけに冷たく、抱えている少女には顔色を伺うことを拒まれているかのよう。 『もう、これ以上…』 関わりたくないのに。 下を向くことを赦されない状況で、昆虫の羽音よりも小さくか細い声が耳に届いた。 [*前へ][次へ#] |