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勇者の従者は魔王様!?
始まりは世界の危機!?

青い空、白い雲。ついでに眩しいくらい明るい太陽が昇っている。

「いい天気だなぁ……」

これは絶好のピクニック……いや、冒険日和であろう。

そんな晴天の下、緑溢れる一本道を軽い足取りで歩いているのは、村娘のような格好をした少女だった。

膝上までの白いワンピースはかなり質素なもので、履き物だって元は白かったんだろうが灰色に汚れている。

ワンピースの上には茶色いベストを羽織っていて、胸には黒曜石が嵌め込まれた丸いペンダントが提げられている。太陽の光が反射してきらきらと光る。

格好だけ見ると村娘だろうが、一つだけ普通の村娘、いや、普通の人とは違った。

耳の上で二つに結われた髪と、好奇心が詰まってそうな大きな瞳は銀色だった。いや、白銀と言った方がしっくりくるだろう。

白銀の髪と目とは、実に珍しい容姿だった。

そんな少女の名前は、優姫(ゆうき)。優姫・アリベル=トラーナ。

つい最近誰にも祝福されずに十六の誕生日を迎えた少女。

そして、そんな彼女はなんと、勇者だった。

勇者、それはすなわち戦を駆ける者。血を流し、血を見る。悪を斬る。それが勇者。

そんな勇者とは似つかないほど純粋な瞳をしているが、だがしかし、勇者なのだ。

誰になんと言われようが、勇者なのだ。

優姫には親がいない。両親とも、優姫が幼い頃に殺された。目の前で、魔王の手下に。

その日から勇者になって、必ずや魔王をこの手で始末しようと心に決めていた。

そして十六歳を迎えた直前に故郷、セパルア村を出てきた。誰に伝えるまでもなく。

どうせ別れを告げる相手などいなかった。

昔からこの奇妙な髪と目の色のせいで、友達など一人もいなかった。

唯一の味方だった両親が殺されてから、優姫はたった一人で生きてきた。

ついでに一応勇者になる為の修行もしてきた。

「さて、とりあえず王都ラピスに向かうか」

先程勇者と言ったが、実は“まだ”勇者ではない。

勇者になるには正式な手続きがいるのだ。それを行う場所が王都ラピスである。

勇者即ち魔物の討伐隊。魔物を倒せば倒すほどランクが上がり、ランクが高ければ高いほど有名になれる。

魔王なんて倒したら、それこそ英雄だろう。

「英雄になって美味い飯たらふく食ってやる……」

優姫は山奥の小さな貧しい村で生まれ育った少女。そう、一言で言えば貧乏。

勇者になるにはお金がいるらしい。なので両親が亡くなった八歳の頃から町に降りて仕事をしてお金を貯めてきた。

生憎両親は一銭も遺産など遺してはいなかった。ご飯だって食えるか食えないかの日々だった。

その血と汗と涙の結晶が肩から掛けている茶色いポーチに詰まっている。

「剣も買わなきゃな……さすがに棒きれじゃ情けないし」

優姫の腰に提げられるは立派な剣、などではなくて立派な棒きれだった。

実はまだ剣を握ったことすらない。修行はいつも山奥に落ちている手頃な棒きれでしていた。

王都に着いたら早速購入するつもりだ。

「さて、急ぐか」

と、緩まりかけていた歩調を進めていた時だった。

『のーん』

「のーん?」

『のーんうはっ』

「のーんうはって……」

背後から聞こえた奇妙な鳴き声に首を傾げて振り返った。

すると、その声の持ち主は鳴き声と同じで奇妙な容姿をしていた。

頭はマンモスで体はゾウ、尻尾はネズミ。これはまさしく、

「魔物おぉおおっっ!?」

『のーんうはっ』

優姫は五歩くらい後ずさった。心臓はばくばくしている。

「ここって魔物出ないんじゃなかったのか!?」

そう、ここは魔物対策として周りに結界が張られていて、魔物は足を踏み入れることは不可能なはず。行き交う人にそう聞いた。

「ど、どうしよう……」

修行をしてきたとは言え、実戦経験0。

しかしこの魔物を放置して行くなんて、勇者になる者として、してはいけない行為だと思う。

それに先程まで晴れていた空には雲がかかりどんよりと曇った灰色の空になっている。

それがこの魔物の仕業なら尚更、

『のーんうはっ』

「や、やってやろうじゃないか!」

勇者は腰の棒きれを手にとって両手で構えて叫んだ。

ここは腹を括ろう。この際だ。最後の試練としてこの魔物を倒そう!そしてついでに晴天も取り戻そう!曇っていては洗濯だって乾かない。

「さあこい、このへんてこめ!!」

威勢よく叫んだ優姫に、魔物は鳴き声を挙げてそれに応えるように突進してきた。

「えっちょ、嘘!いやいやまて!」

予想外だった。ゆるい鳴き声からは想像出来ない程に荒々しい突進。

へんてこと言われたことに腹を立てているのか?

やばいって!そう思った優姫は反射的に目を閉じてしまった。

「こんなに可愛い娘に手ェ出しちゃ駄目でしょ君」

不意に生温い風が優姫の肌を撫でたと思いきや、低く、静かな声音が聞こえた。

「え……?」

ゆっくり目を開けると、目の前には黒い髪の青年が背を向けて、いや、優姫を庇うように前に立ちはだかっていた。

「お前は……」

優姫が問うよりも早く魔物の鳴き声に遮られた。

「あれ、わかんないんだ?いけない子だなあ。そんな子には……」

『のーんのーんうはっ!』

心なしか魔物が慌てているような気がする。

「お仕置きね」

「…………!」

優姫は目を見開いた。この青年がお仕置きという言葉を口にした次の瞬間、魔物は木っ端微塵に吹き飛んだ。しかし肉の破片はこちら側には飛んでこない。まるで何かに守られているように。

「君、大丈夫?」

呆気にとられている優姫を振り返り、腰を屈めてその間抜けとも言える顔を覗き込んだ。

優姫はしばらく絶句した。青年の顔はこれまで見たこともないくらい繊細で美しかったから。

瞳は吸い込まれそうなほど黒く、後ろで高く結っている長く艶やかな髪もまた漆黒。

「……綺麗」

思わず呟かざるを得なかった。

「ほんと?嬉しいなあ」

青年の嬉しそうな呟きで、はっと我にかえる。

「わ、悪ぃ!助かった!あの、大丈夫か!?怪我とかしてないか!?」

青年の黒い高そうな服を両手でつかんでがくがくと揺らす。

勇者になろう者が助けられるなんてなんとも恥ずかしい。

「大丈夫大丈夫。可愛い女の子助けるのが男ってもんでしょ」

へらっと笑う青年の台詞に優姫は少し顔をしかめるが、ふと青年の額に目をやった。

「ここ、擦りむいてるぞ」

青年の額からは血が滲んでいた。

「え?あ、ほんと」

手で拭って初めて気付いたらしいが、優姫は申し訳なさそうに頭を下げた。

「悪ぃ!怪我させちゃって……」

すると青年は驚いたように目を瞬かせ、小さく吹き出した。

「いや、大丈夫これは追われてる時に……」

「追われてるのか!?誰にだ?」

もしや魔物か、と思った優姫に肩を竦めて青年は笑った。

「魔王の手下」


それを聞いて目から鱗が飛び出すかと思った。

「魔王の手下ぁ!?」

ころころと変わる少女にくすくすと笑いながら青年は頷く。

「よく無事だったな……。お前、強いんだな。あ、そうかわかったぞ!お前も勇者だろ!」

尊敬の眼差しで青年を見上げて自信満々に言った優姫に対し、青年は、ぶっと吹き出した。

「な、何で笑うんだ!私おかしなこと言ったか?」

笑われた優姫は顔を赤くして青年から目を逸らした。

「いやいや、まあそんなとこ。俺も、てことは君も勇者なんだ?」

くくっと肩を震わせながらも、穏やかな顔付きで聞いた青年に優姫は頷いた。

「まあ、まだ勇者じゃないけどな。これからなるんだ」

「そっか。んじゃラピスに向かうんだ?」

「おう!」

拳を固めて頷いた勇者に青年はそっかーと考えるような素振りを見せたあと、よしとと呟いた。

「何がよしなんだ?」

「俺もラピスに用があるんだよね。着いて行っていい?」

にこっとさわやかに笑む青年は、断れそうな雰囲気ではなく、優姫は頷かざるを得なかった。

まあ、一人旅は退屈だったので嬉しくないと言えば嘘になる。

ついでに道案内にもなるし、一石二鳥だ。

「よろしくな。私は優姫だ。優姫・アリベル=トラーナだ!」

「優姫、ね。俺はー……黒助っていうの。よろしくねー」

差し出した優姫の手をちらりと見下ろした青年、黒助は手をとらずに笑顔で言った。

そんな黒助の手を無理矢理とり、ぶんぶんっと上下に振った。

呆気にとられている黒助を見上げて優姫はにやりと笑って見せた。

「握手は礼儀だ!宜しくな、黒助」

きょとんと目を丸くしていた黒助はやがてふっと笑みを溢して頷いた。

「ん、覚えとく。宜しく優姫」

そんな黒助に満足そうに笑って王都ラピスへの道を歩き出した。

空が、まだどんよりと曇っているのも忘れて。

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あきゅろす。
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