移ろいやすき小春日和 オマケ デーデマン家の一室。 ちょうど休憩の時間に入り、使用人3人組…A、B、ツネッテの3人は、お茶を片手に他愛もない話に花を咲かせている。 その会話も最近知ったばかりの新事実、あまりお近づきになりたくない隣人の、とても似ているのにあまりにも似ていない妹の話題へと移りゆく。 ユーゼフを苦手とするBは、その接点となり得る会話に拒否反応を起こすものの、その一方でやっぱりユリアへも興味はあるらしい。 一見する限りでは、彼女はデイビッドにも負けない癒やし…またの名を、新たなる非難所へとなるかもしれないのだ。 「…なんというか、中身はホントにデイビッドさんに似てるよなぁ」 「そうね、あの癒やしのオーラとかヘイジにも全く動じないところとか。使用人だったら、即刻セバスチャンに引き抜かれてるわよ」 「ヘイジに耐えられる人ってだけで貴重だもんなぁ…」 そんな何気ない井戸端会議。 しかし噂をすれば陰が立つ。 ガチャリとドアが開く音に顔を向ければ、そこには噂の当人がいた。その足元にはもう1人の噂の人物(?)ヘイジがいる。 「ヘイジさん。どうしても駄目ですの?」 【ああ、デーデマンを裏切ることは出来ないからな】 「そうですか…、残念ですわ」 その部分だけでは全く話の筋が見えない会話を交わしながら、部屋の中に入ってくる2人。ユリアの表情を見る限り、あまり楽しい会話ではなさそうだ。 そのうちユリアは、室内にいる使用人3人に気付くと表情を柔らかくし、丁寧に頭を下げる。 「休憩中でしょうか、お邪魔して申し訳ありません…」 「いえ、お気になさらず」 「…それより、何の話をしていたんですか?」 好奇心に勝てずに尋ねるのはツネッテ。 それに困ったように苦笑したユリア。 まずいことを聞いたか…そう心配した刹那、ユリアは軽く肩をすくめて口を開いた。 「ヘイジさんに、よろしければ当家で暮らさないかと持ち掛けたのですが…、断られてしまいました」 なんてことを! 使用人たちに衝撃が走る。 自ら進んで苦労を背負おうと、自分たちの苦労や仕事が大幅に減る機会が目の前にあったというのに、あっさりと取り逃がした構図。 使用人たちは色を為してヘイジに飛びかかる。 「ヘイジ! いい申し出じゃないか!」 「そうよ、ユリア様がいらっしゃるのよ!? きっとよくして下さるわ!」 「少なくとも暇を持て余すことはないぞ!」 三者三様の説得の言葉が飛び出すが。 「大丈夫です、もう諦めましたから…。気を使わせてしまって申し訳ありません」 穏やかな口調で止められてしまっては、3人の行動を好意だと思っているらしいユリアへの手前、それ以上無理を言うこともできず。 3人は、がくりとその場に膝をつき、うなだれてしまった。一瞬でも光明が見えたことに期待しただけに、なかなか立ち直れそうにない。特に日々ヘイジの皮と戦っているツネッテの落ち込みようは凄まじかった。 一方で、落ち込む使用人たちの様子を不思議そうにしながらも、ユリアとヘイジはそれまでのように和やかに会話を続ける。 「ヘイジさんはデーデマン様といつからのお付き合いなのですか?」 【ん? 気になるのか?】 「はい、私も幾代か前のデーデマン様にお会いしましたが…、その時にはヘイジさんにはお会いしなかったなと思いまして」 その瞬間、うなだれていた使用人3人は聞き逃せない事実の含まれていた言葉にピクリと反応する。 まさか 3人が3人とも顔色を悪くし、ダラダラと噴き出る汗が背筋を濡らしていった。 そう、属性的には正反対のユーゼフとユリアだけれど、その容姿は血縁関係を疑う余地もないほどそっくりで。 心理的には疑問を抱きながらも、2人は間違いなく兄妹であると断言できる。 そして年齢不詳のユーゼフ。 ユーゼフに常識を求めるのは間違っているけれど、常識に則るなら兄妹である2人はある程度年が近いのではないか。 そして何より、先程ユリアの口から語られた言葉たち。 つまり導き出される答えは。 (やっぱり兄妹だ…!) 使用人たちは2人の血縁関係に、これ以上ないほどの確信を抱いたという。 2009.2.15 [*前へ] |