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GENDER GAME

「ナミさん、ロビンちゃん。
はい、デザートのシャーベットです」

食材を調達したことにより、サンジが腕を振るって豪勢な食事が用意される。
すごい勢いで食事を進める弟を呆れたように見やっていたレミは、そんな光景に気付いて声を上げた。

「いいなぁ。サンジくん、ボクにもちょうだい」

「野郎のぶんはねぇよ」

短く切って捨てられて不満げに唇をとがらせたレミだったが、それで引き下がらなかった。

「ね、サンジくん。ボクにもちょうだい」

「はい、喜んで」

レミの姿がゆらりとゆらいだかと思うと、そこには戦いの際に目にした少女の姿がある。
再度サンジに頼めば、瞬時にデザートが用意されて小さく歓声を上げた。
サンジの扱い方を、既にマスターしているようである。


そんな光景を呆れたように見やったウソップだが、戦いの最中から気になっていたことを
ようやく切り出す機会に恵まれて、口を開いた。

「なぁ、あんたのそれも悪魔の実の能力なんだろ?」

レミはシャーベットに舌鼓を打ちながら顔を上げると、ああ、と思いついたように顔を上げて説明しだした。

「そういえば言ってなかったっけ。
もちろん、ボクも悪魔の実の能力者。ニジニジの実だよ」

「ニジニジの実?」

「ニジニジ…虹? あの七色の」

「そう、虹は空に輝きその場にあると錯覚させるのに、実際にその場にないもの。
…ようするに、幻による錯覚を引き起こす能力だよ」

あっけらかんと説明し、また何事かをサンジに頼んでいる。
喜んで請け負ったサンジだが、そこでふとあることを思い出して確認を取る。

「ちょっと待ってください、レディ。
先程の戦いで胸を触りましたが…ということは、あなたは女性ということでよろしいんですよね?」

「言ったろ? 錯覚させる能力だって。
見たことをそのまま感じさせる能力。嘘の感覚を、本当のことだと錯覚させることもできるんだよ」

ということはつまり、レミの上に幻で上書きしただけで、体は変化していないということである。
実際には、男の胸を揉んで喜んでいたかもしれないということだ。

それらを理解した途端、再びサンジの態度が変化した。
男に喜んでいたかもしれない…そんな屈辱も相俟って、むしろ嫌う勢いである。

サンジの態度の変化に、面白そうに目を瞬いたレミの姿が
再びぐにゃりとゆがみ、そうして現れた姿に、ルフィ以外のメンバーは目を見張ることとなる。


「まぁ幻って言っても、見た目だけは本物を再現できるわけだから、こんなことも可能なわけなんだけど…」

そうして片目を瞑ってみせるのは、どう見てもナミにしか見えない。

クルーたちは面白そうにケタケタ笑うナミと、驚きに目を見張るナミを交互に見て
次に、レミだったはずのナミを凝視し始めた。

視線が自分に集まっていることに気付いたレミは
軽く顔をうつむかせ、流し目でアダっぽい表情を作ってみせる。

「すげぇ…ナミの顔なのに色っぽい…」

「どういう意味よ!」

呆然と呟いたチョッパーに、ナミの拳骨が振り下ろされた。
肩を怒らせるナミだが、レミに変化を解かせようと視線を向けて、再び怒鳴ることになる。

「ちょっと! あんた、何やってんのよ!」

「いやぁ、すげースタイルだなと思って」

そういうレミは己のシャツの襟元を引っ張って、今はナミの体を上書きしている自分を観察しているのだ。
そして、レミへと吸い寄せられるように近付いていたブルックは。

「パンツ見せてください」

「ブルック!」

瞬時にナミによって投じられた鈍器により、ブルックは撃沈。
ナミはレミにも攻撃を繰り出すが、ひょいひょいと軽い調子でかわされてしまう。

「ちょっとサンジくん! レミを止めて!!」

ナミはサンジへと救援を求めた。

もとより、あまりにも羨ましすぎる光景に
レミへの闘争心を燃やしていたサンジは、烈火の勢いでレミへと向かうが

「…あ、あんたも見てみる?」

「一生ついていきます!!」

「サンジくん!!」

襟元を引っ張ってのレミの一言に呆気なく陥落し
レミとサンジは、そろってナミから天誅を食らったのだった。






そうして、最初の殺伐とした出会いが嘘のように、麦藁の一味に馴染んだレミだったが
翌日にはレミは一味と別れ、ジェシーの背に乗って飛び立っていった。

ルフィからも、そしてクルーたちからも仲間になるように強く勧誘は行われたが

「もしボクまで海賊になったら、じいちゃんがスゴい勢いで追いかけてくると思うけど」

そんな一言に、みな断念せざるを得なかった。できることなら2度と鉢合わせたくない人である。


そして、遠く見えなくなるまで見送っていたクルーたちだったが

「…そういえばルフィ。
ふと気になったんだが、あの人はお前の兄ちゃんでいいんだよな?」

フッと、ウソップがそんなことを言い出した。

いきなり何の話だと訝しげに振り返ったクルーたちだったが、すぐに思い至る。
そういえばレミは戦いや宴会の最中、しょっちゅう変身して見せていた。すぐに少年の姿に戻るので、それがベースなのだろうと無意識に思っていたのだが確認したわけではない。
質問という形は取っているが、それでも答えは決まりきっていたはずの問いなのだ。

それなのに、

「知らね」

ルフィから返ってきたのは、そんな端的な言葉である。

「…知らねえって」

「あんたの兄弟なのよ!?
男か女か、知らないってことはないでしょう」

「だって知らねえもん。レミはレミだろ。
島にいた頃は、女のカッコしてることのが多かったけど」

何でもないことのように告げて、スタスタと歩き去っていくルフィ。
彼にとって、レミの性別など心底どうでもいいことなのだ。

残されたクルーたちは確かめようにもそのための手段は断たれ、呆然と立ち尽くすしかない。

特に男か女か、それが大きな意味を持つサンジなどは
能力の説明の際に男だと思い込み、確かめなかったことに大きく嘆いていた。
思い返してみれば、レミが己の性別を断言したことはないのだ。

突然降って湧いた謎に、悶々と過ごすことになるクルーたち。



そして、後日。

性別の違いはあれど、レミの素顔だと思っていた容姿が
実はレミが常用する容姿の1つでしかないということを、ルフィの何気ない言葉から知り
そのベースとなる容姿さえも謎に包まれてしまうことになる。

賞金稼ぎ“幻影”の噂は年齢性別、全てバラバラで。唯一の共通点が、その半身を覆う大きな刺青だった。
人の口を伝わるうちに事実がゆがんでいくことはよくあることだが、それでもあまりにも纏まりのない噂たちに
いつしか“幻影”と冠されるようになったというのが、その二つ名の由来だ。
しかしこうなると、あの特徴的な刺青さえ本物かどうか怪しいものである。

容姿どころか、男か女か性別さえも不詳。
“幻影”の通り名の由来どおり、更に謎は深まることになるのだった。










→アトガキ

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あきゅろす。
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